1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

日本企業が賃上げもイノベーションもできない訳 「株主価値最大化」がもたらした「失われた30年」

東洋経済オンライン / 2024年9月18日 9時30分

賢明な読者はすでに察していると思うが、日本は、この一連のアメリカの失敗を後追いしたのである。しかも、それを「改革」と称して、やり続けた。その時期は、「失われた30年」と言われる時期と一致している。

その30年間の日本の改革を、先述のアメリカの制度改革の変遷と比較しつつ、改めて振り返ってみよう。

1997年の改正商法によってストックオプション制度が導入された。さらに、2001年の改正商法で新株予約権制度が導入されたことで、ストックオプションの普及が促進された。この2001年の改正商法では、自社株買いについて目的を限定せずに取得・保有することも可能とされた。

さらに、2003年の改正商法では、取締役会の決定で自社株買いが機動的にできるようにする規制緩和が行われた。なお、この改正商法では、アメリカ的な社外取締役制度が導入され、外資による日本企業の買収が容易になった。2005年には会社法が制定され、株式交換が外資に解禁された。

1999年には、労働者派遣事業が製造業などを除いて原則自由化され、2004年には製造業への労働者派遣も解禁された。2001年、確定拠出型年金制度が導入され、従業員の年金に関する企業の責任は軽減された。

このように、1990年代から2000年代にかけての日本は、1980年代以降のアメリカの「コーポレートガバナンス改革」を模倣し続けていた。ところが、2010年代に入ると、そのアメリカにおいて、株主資本主義に対する批判の声が高まってくるようになる。

ラゾニックは、一貫して、株主資本主義に対する批判を続け、多くの論文や著作を発表し続けていたが、その彼の洞察が、この頃から、次第に高く評価されるようになってきたのである。

中でも、ラゾニックが2014年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌において発表した論文「繁栄なき利益(Profits Without Prosperity)」は、同誌の年間最優秀論文(マッキンゼー賞)に選出され、アメリカにおいて大きな話題となった。

同じ年には、かのトマ・ピケティによる『21世紀の資本』の英訳が刊行され、大ベストセラーとなっていた。

ピケティが示した格差拡大の要因の1つを、企業組織の観点から解明したのがラゾニックであると言ってもよい。

最も大きな賃金抑制圧力は「外国人投資家」

同じ頃、日本においても、同様の問題意識に立った研究が発表されつつあった。

例えば、2010年に野田知彦氏と阿部正浩氏が発表した研究は、2000年以降、金融機関と密接な関係を持つ旧来型の日本型ガバナンスがなされている企業では賃金が相対的に高く、外国人株主の影響が強い企業ほど、賃金が低くなっていることを明らかにした。そして、最も大きな賃金抑制圧力は、外国人投資家の影響であると結論したのである(野田知彦・阿部正浩(2010)「労働分配率、賃金低下」、樋口美雄(編)『労働市場と所得分配』慶應義塾大学出版会、第1章、3─46頁)。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください