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日本企業が賃上げもイノベーションもできない訳 「株主価値最大化」がもたらした「失われた30年」

東洋経済オンライン / 2024年9月18日 9時30分

さらに、2015年版の『労働経済白書』も、賃金が上がらない理由として、企業の利益処分の変化(株主重視)や非正規雇用の増大を挙げている。

このように、2010年代は、「株主価値最大化」のイデオロギーの弊害が顕著になり、資本主義のあり方そのものを転換しなければならない重要な時期であったのである。
ところが、2012年に成立した第2次安倍晋三政権は、「成長戦略」と称して、この「株主価値最大化」のイデオロギーに基づく改革を転換するのではなく、加速させたのであった。

例えば、2014年、家計の資金を投資に向かわせるための少額投資非課税制度(NISA)が導入された。また、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の公的・準公的資金運用やリスク管理体制などが見直され、ポートフォリオにおける国内および海外の株式の比率が高められた。

2015年には、企業に対する外部ガバナンスの規律である「コーポレートガバナンス・コード」が策定された。2014年8月、経済産業省の研究会が「持続的成長への競争力とインセンティブ〜企業と投資家の望ましい関係構築〜」プロジェクト「最終報告」なる文書を公表し、その中でグローバルな投資家に認められるROE(自己資本利益率)の最低水準は8%であると明記した。

ROEは、企業の自己資本(株主資本)に対する当期純利益の割合であり、分子の当期純利益を増やさなくても、株主還元により分母の自己資本を減らせば、簡単に数値を改善することができる。それゆえ、投資家がROEの改善を強く要求すれば、企業はその利益を株主に還元するようになるというわけである。このROE重視の動きを受けて、日本のISSは、2015年2月以降、過去5年の平均ROEが5%を下回る企業に対しては、株主総会で経営トップの選任案に反対票を投じることを機関投資家に推奨することとしている。

さらに、第2次安倍政権は、法人税の減税も行った。その結果、1997年には46.36%であった法人税実効税率は、2018年には29.74%にまで低下した。それだけではない。同年には入国管理法が改正され、2019年4月から一定の業種で外国人の単純労働者を受け入れることを決定した。この特定技能制度により、国内で賃金が上昇しようものなら、外国人労働者が流入して賃金上昇を抑制する仕組みが完成されたと言ってよい。

健全な経済成長の姿を取り戻すために

このように、1990年代以降の日本は、80年代以降のアメリカの改革をモデルとして、一連の「コーポレートガバナンス改革」を行ってきた。そして、当然の結果として、アメリカの失敗を後追いしたのである。

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