日本企業が賃上げもイノベーションもできない訳 「株主価値最大化」がもたらした「失われた30年」
東洋経済オンライン / 2024年9月18日 9時30分
1978年から79年にかけて、キャピタルゲイン税の最高税率が約40%から28%へと引き下げられ、1981年には、さらに20%まで引き下げられた。法人税の減税も、2001年、03年、17年に実施された。
1979年に、従業員退職所得保障法(エリサ法)が改変された。同法は、それまで年金基金の運用者に対して「プルーデントマン」ルールという受託者義務に違反した場合には個人的責任を負うように定めていたが、その義務が緩められたため、投機的な投資が可能となり、巨額の年金基金からの資金がシリコンバレーのベンチャーキャピタルへと流れ込んだ。このシリコンバレー式のベンチャーキャピタル・モデルは、90年代には全米に広がり、株式市場は投機化した。それは、90年代後半のいわゆる「ITバブル」を生み出したのである。
1980年代以降、「コーポレートガバナンス」改革の名の下に、株主利益を最大化すべく、機関投資家の企業に対する支配力を高める制度改変が行われた。特に、公的年金基金は、このコーポレートガバナンス改革の最も熱心な実践者となり、投資先企業が採用すべき「最良のコーポレートガバナンス実務」の指針を策定した。公的年金基金のリーダー的存在であったカリフォルニア州職員退職年金基金は、株式への投資を拡大したり、機関投資家アクティビストが標的を特定しやすくするために「業績不振」企業リストの策定を主導したりした。1985年には、議決権行使助言サービスを行うISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ)が設立された。こうした制度改変が行われる中、企業に「削減と分配」を迫るヘッジファンド・アクティビストの力が大きくなっていった。
1980年代には、企業における確定給付型年金から確定拠出型年金への移行も進展した。確定拠出型年金では、従業員は自己責任で年金を運用することになる。これにより、企業は従業員の年金に関する責任から解放され、リストラによる人件費の削減がいっそう容易になったのである。
この過去40年間に及ぶ改革の結果、アメリカの企業では、生産性の伸びにもかかわらず、賃金はほとんど伸びなくなり、所得格差は甚だしいものとなってしまったのである。
端的に言えば、ラゾニックは、過去40年間のアメリカの企業組織の変遷を、価値を創造して利益を生み出す組織から、価値を奪い取ることで利益を生み出す組織へと変貌していった失敗の歴史として描いているのである。そして、この失敗の歴史を駆動していたのが、「株主価値最大化」というイデオロギーである。
アメリカの「改革」後追いがもたらした「失われた30年」
この記事に関連するニュース
-
トヨタがROE20%目標か その意義と日本株に与える影響は?
財経新聞 / 2025年1月11日 9時43分
-
「こしょう」への欲望が生んだ「株式会社の発明」 資本主義の最も重要な手法の1つだが副作用も
東洋経済オンライン / 2025年1月1日 8時0分
-
収入は増えないのに物価は上昇し続ける…国民にだけ我慢を強いる自民党政権の「無責任」を許していいのか
プレジデントオンライン / 2024年12月21日 7時15分
-
物言う株主エリオットが狙った東京ガスの「急所」 低株価の原因見抜き、還元、資産売却へ圧力
東洋経済オンライン / 2024年12月20日 8時10分
-
株式会社ウィザスのコーポレートガバナンスの改善を確認
PR TIMES / 2024年12月17日 18時45分
ランキング
-
1「国はずるい」宮城の村井知事が憤り 旧優生保護法補償法で被害者対応を自治体に丸投げ
産経ニュース / 2025年1月15日 14時42分
-
2【速報】大学生暴行死 主犯格とされる18歳男ら2人の実名公表 少年含む4人を起訴 札幌地検
STVニュース北海道 / 2025年1月15日 14時39分
-
3小学校花壇にシカの頭部か、岐阜 埋められた可能性、腐敗なし
共同通信 / 2025年1月15日 12時4分
-
4大統領拘束に「重大な関心」 日本政府、韓国と緊密に意思疎通
共同通信 / 2025年1月15日 12時7分
-
5「都議会自民党」会計担当を週内にも立件へ、パーティー収入3000万円不記載か…東京地検特捜部
読売新聞 / 2025年1月15日 5時0分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください