なぜ今、企業経営に「倫理」が求められるのか 「パーパス経営」の理想と現実をつなぐ判断軸
東洋経済オンライン / 2024年9月25日 9時30分
経営の現場では、広い洞察と素早い決断が求められる。コンプライアンスだけが気になると、できるだけリスクを避けようとする。その結果、「不作為のリスク」をこうむる。それが、「失われた30年」といわれる平成の失敗の本質だ。オーバーコンプライアンスがはびこると、ますます負のスパイラルから抜け出せなくなる。
パーパスを実践するためには、1人1人が正しい倫理観を胸に、不確実な現実を切り開いていかなければならない。ただ、倫理はあまりに抽象的かつ多義的すぎる。そこで、優先順位が明確な判断軸が必要になる。それがプリンシプルである。
ジョンソン・エンド・ジョンソン「我が信条」
プリンシプルを基軸としたエシックス経営の先進事例を、見てみよう。
たとえば、ジョンソン・エンド・ジョンソンの「我が信条(Our Credo)」は、よく知られている。そこには、会社の果たすべき4つの社会的責任が示されている。
① 患者、医師、看護師、そして母親、父親を含むすべての顧客、そしてビジネスパートナーに対する責任。
② 世界中の全社員に対する責任。同時に、公正性、道義性を重視する卓越したリーダーを育成する責任。
③ 地域社会、さらには全世界の共同社会に対する責任。
④ 株主に対する責任(イノベーションに果敢に投資し、新しい価値を生み続ける責任が含まれる)。
昨今、「マルチステークホルダー主義」として注目される企業倫理の本質を、80年前から掲げ続けているのだ。しかも、当時のジョンソン・ジュニア社長は、この信条を取締役会で初めて発表した際に、次のように断言したという。
「これに賛同できない人は他社で働いてくれて構わない」
このようなプリンシプルが浸透していると、危機のときにも経営者自身が正しい判断を素早く下すことができる。1982年、全米を震撼させたタイレノール事件は、その象徴だ。
シカゴ近郊で、同社の解熱鎮痛剤タイレノールを服薬した人が、立て続けに7人死亡。当時のジェームズ・バーク社長は、直ちに出荷停止を決定。①を最優先するのであれば、当然の判断だった。
その後、調査の結果、出荷後に何者かが外部から薬物を注入した結果だと判明。危機においてもぶれない同社の姿勢は、高く評価された。最近の「紅麹問題」に対する小林製薬の後手後手の対応とは、雲泥の差である。
同社では、日本のガバナンス改革を牽引してきた学者が、筆頭社外取締役になっている。外面をいかに取り繕おうと、プリンシプルが浸透していないと、経営者自身が残念な判断に走ってしまう好例といえるだろう。
マッキンゼー「異議を唱える義務」
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