「便利な製品」を卒業したアップルが目指すもの 新製品が「何も変わっていない」という人たちへ
東洋経済オンライン / 2024年10月6日 9時0分
そうしたさまざまな大きな取り組みの中で、今回紹介したいのが、人々の健康を守る取り組みだ。先月行われた新製品発表会では、新商品以上に大きな印象を残している。
10億人の運命を変えるApple Watchの新機能
さて、ここで1つ質問しよう。
「日本でおよそ900万人。世界では10億人」。これは何の数字だかわかるだろうか?
答えは睡眠時無呼吸症候群という疾患の潜在的患者数だ。睡眠中に一時的に呼吸が止まり、身体が十分な酸素を取り入れられなくなるというもので、治療をしないままでいると、高血圧、2型糖尿病、心疾患のリスクが高まるなど、時間の経過とともに重大な健康への影響をもたらす可能性がある。
テレビの健康番組などで、芸能人が医療機関に泊まり込んでその兆候があるかのテストをしている様子を見たことがある人もいるだろう。医療機関に泊まり込む必要があることからもわかるように、この疾患の発見は厄介でお金もかかる。
こうした中、アップルは数年前からリリースしていたApple Watchの睡眠記録機能を拡張し、臨床的にも認められた形(厚生労働省からも認可を受け、医者が診断の際に役立つ情報を書き出す機能も用意した形)で、「睡眠時無呼吸の兆候」を検出してユーザーに教える機能を開発した。日本では、10月第2週には厚労省から最終承認が降りてこの機能が利用可能になる。
ウェアラブルデバイスでこの疾患を検出できるようにしたのは世界初の快挙だ。
最近、自宅での簡易検査を提供している医療機関もあるが、その方法は血中酸素濃度を測る専用機器「パルスオキシメーター」をつけて寝るなど大掛かりな割には偏った情報しか取れない。そもそも、これはすでにある程度、自分は睡眠時無呼吸症候群かもしれないという自覚があるからこそ受ける確認用のテストだ。
対してApple Watchでは、日々使う睡眠記録機能の延長線上で、睡眠疾患の兆候を発見できる。Apple Watchの加速度センサーを使って睡眠中の正常な呼吸パターンの中断に関連する手首の動きを検出するという仕組みで、睡眠時の呼吸がアルコール、服薬、姿勢などの影響を受けることを考慮して30日ごとの呼吸の乱れをもとに診断を行う。
こうした情報は、ユーザーが許可すれば医師にもPDFファイルとして共有が可能で、より深い診断の材料として使うことができる。
こうしたことができる機器は現在、Apple Watchをおいてほかにない。しかも、アップルはこうした技術を持つ会社を買収したのではない。同社は2015年、大学などの研究機関が健康に関する課題の研究をするために、iPhoneやApple Watchで健康データの提供を許可してくれる被験者を募る「ResearchKit」という開発基盤を提供。これを通じて、世界の研究機関で重要な疾病に関する研究が一気に進んだのである。
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