「便利な製品」を卒業したアップルが目指すもの 新製品が「何も変わっていない」という人たちへ
東洋経済オンライン / 2024年10月6日 9時0分
今年10周年のApple Watchだが、登場したばかりの頃は腕時計の伝統をデジタルで再創造することと、抜きん出たファッション性、そしてフィットネス機能という3点だけに焦点を絞っていた。
ただ、ここが大手の強みで、それでも世界で数億人が使うようになったことで、あることが起きた。たまたまフィットネス機能の一環としてつけた心拍数を計る機能を使って、自らの心臓疾患を発見し、命を救われた人が続出し始め、アップルに感謝状を書き始めたのだ。
これがきっかけでアップルはResearchKitなどの開発を始める。これはアップルがいかに顧客の声に耳を傾け、そこから新しいトレンドを掴み、素早く製品開発に役立てているかの証左でもある。
強みの背後にはプライバシー保護の姿勢
こうした機能の実現には、医療系技術もさることながら、アップルのプライバシー保護に関する取り組みもモノを言っている。他社が利益のためにユーザーのプライバシーを蔑ろにする行為をつねに批判し、自社はプライバシーを保護する側だと主張してきた。
そうやって積み重ねてきた信頼が、アップル製品は安心して自分の健康情報を預けられる機器という認識を生み出し、来年以降は自分の最もプライベートな頼みごとをお願いできる電子秘書、Apple Intelligenceを広めていく上でも重要になってくる(Apple Intelligenceは日本への対応は来年以降だが、今回発表された16番台のiPhone以降から使える。正確には昨年登場のiPhone 15 Proシリーズも対応している)。
気がつけば、「何も変わっていない」と思わせるほど小さく積み上げてきた健康機能が、今では簡単には追いつけない高山のようにそびえたっている。アップルが現在、立っている境地に辿り着くのは並大抵のことではない。
日本に限らず、ガジェットが好きな人には一時的に「便利」と思わせる機能を過剰に重宝する傾向がある。その期待に応えて毎年CESなどのイベントに合わせて、積み重なることのない打ち上げ花火的な新機能の開発に注力することは消耗線でしかない。
そんな数千人を喜ばす数週間の話題に投資するよりも、5〜6年くらいかけないと実現はしないが、実現したら世界の75億人の暮らしを変えるような価値提供を目指して、少しずつ改善を積み上げていったほうが企業のブランド力にもつながるのではないだろうか。
さて、最後にもう1つ質問しよう。あなたはこれでもまだ先日発表された新製品をみて「何も変わっていない」と言えるだろうか。
林 信行:フリージャーナリスト、コンサルタント
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