インドは国産化?「新幹線輸出」なぜ難航するのか ベトナムも「自国技術」で高速鉄道建設表明
東洋経済オンライン / 2024年11月8日 6時30分
このような完全インドベースの国産車両が導入されれば、信号や保安装置などの地上設備は設計のやり直しになる可能性があるし、はたして日系メーカーに対応できるのかという話になる。速度の異なる車両が入り乱れることになれば、運行計画も白紙に戻る。本当に2026年末までに調達が可能なのか、旅客営業に耐えうる車両なのかも未知数な中、開業への道は前途多難だ。
高速鉄道「国産化」が持つ意味
すべてがインド側の責任なのか。いや、さかのぼればその原因は、新幹線輸出をあまりにも安易に考え、「日本の鉄道技術は世界一」と傲慢な態度で向かい合っていた日本政府にあるといえるのではないか。
インドネシアでは、ジャカルタ―バンドン高速鉄道が2024年10月18日に開業1周年を迎えた。事故やトラブルなく1年間を走り切り、9月にバンドン地方で比較的大きな地震が発生した際も自動検知システムで全列車が安全に停車し、インフラの損傷もなかった。年間利用者数は580万人に達し、平日でも乗車率は7割以上と利用も定着している。
高速鉄道プロジェクトを推進してきたジョコ・ウィドド前大統領は10年の任期を迎え、10月にプラブォウォ大統領率いる新政権にバトンタッチした。新政権はインフラ偏重型の投資から脱却するというのが大方の見方であるが、高速鉄道プロジェクトは引き継がれ、スラバヤまでの全線開業を目指すことが見込まれる。同時に国産車両の開発、製造を間に合わせる構えである。
日中で繰り広げられたインドネシア高速鉄道の受注争いで、一つの決め手となったのは技術移転の可否だ。
古くは日本とフランスで競り合った1990年代の韓国高速鉄道プロジェクトから、技術移転の可否は争点とされてきた。結局、移転を認めるフランスが勝ち、韓国はフランス譲りのTGV方式の高速鉄道を国産化した。現状で唯一、日本の新幹線輸出に成功したとされる台湾も、もし直前の地震が発生していなければ欧州連合が受注していただろう。
巨額の資金を必要とする高速鉄道プロジェクトは、一国の命運を左右するといっても過言ではない。建設費の返済や、運営費用をどう賄うのかなどの不安や批判は必ず議会や国民から噴出する。実際、高速鉄道単体ですぐに黒字化することは不可能だ。その中で、高速鉄道の国産化を約束することは国威高揚にも繋がり、議会や国民を納得させる材料になりうる。
鉄道輸出は長期的視野で
ベトナムの例を見ても、日本が協力したプレF/S(フィージビリティスタディ、実現可能性調査)の結果に基づいて2010年に新幹線方式による高速鉄道計画を閣議決定したものの、国会の承認を得られなかった。その後、要請を受けたJICA(国際協力機構)が高速鉄道建設計画策定の予備調査及び本調査を実施したという経緯がある。その報告書の冒頭には、「先の国会での審議に応え、今後の議論に耐えられるだけの充分な検討が必要である」とある。
しかし、その後もベトナム政府の決断は先送りされてきた。つまり、ベトナム側の理解を得ることができなかったわけである。
ある日本政府関係者は、2010年代初頭、政府による海外鉄道案件醸成への過熱ぶりは異常だったと語る。民間企業の体力やキャパシティーが顧みられることのないまま、官邸主導、結論ありきで先行してきた。そんな中で、はたして現地の実情やニーズがくみ取られていたかは言うまでもないことだ。
被供与国から「押しつけ」とも揶揄されているODA(政府開発援助)とセットにした鉄道システム、とくに新幹線輸出にかかわる制度設計の見直しは必須だ。ODAを通じて、日本企業が利潤を得ること自体に非はないだろうが、あまりにも短期的利益を追求するばかりに、今の状況がある。もっと長期的視野に立ち、日本と相手国、お互いのためになる援助こそ、本来のODAのあるべき姿ではないか。
高木 聡:アジアン鉄道ライター
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