「日大帝国」築いた独裁者の人心掌握術と権力基盤 「民主的でかつ効率的な組織」が存立可能な条件
東洋経済オンライン / 2024年12月30日 10時30分
田中英壽理事長体制での一連の事件を経て、2022年7月、作家・林真理子氏を理事長に迎えた日本大学。改革が進むかにみえた新体制だったが、アメフト部薬物事件、重量挙部・陸上部・スケート部における「被害額約1億1500万円超」もの金銭不祥事などが立て続けに起こっている。
このほど上梓された『魔窟 知られざる「日大帝国」興亡の歴史』では、戦後の「日大」裏面史を掘り下げながら、その原因を探っている。日本最大のマンモス私大でいま何が起こっているのだろうか。思想家で、私大の理事も務めている内田樹氏が読み解く。
民主的運営がきわめて難しい規模の組織
いろいろな方が本書を書評されると思うけれど、現役の大学理事が書評するのは珍しいことだと思う。私は医療系私立大学の理事を13年勤めている。その前は公立大学で8年、私立大学で21年教員をしていたので、「大学というもの」についてはそれなりに観察してきた。
その経験を踏まえて、いきなり結論めいたことを言ってしまうことになるが、日本の私学の場合「ガバナンスが効いている」というのは、「トップが独裁的だが、割とフェアで目配りがよい」ということとほぼ同義である。言い換えると、「民主的に運営されている」ということと「ガバナンスが効いている」ということを並列させることは、こと大学についてはなかなか(すごく)難しいということである。
サイズの小さな大学だったら可能かもしれない。現に私の勤めていた神戸女学院大学はたいへん民主主義的に運営されていたが、なかなか効率的に機能していた。学生数2500人くらいの小さなミッションスクールだったからそれも可能だったのだと思う。でも、サイズが大きくなると民主的な合議でものごとを決めてゆくというのは難しい。たいへんに難しい。
本書の考察の対象である日大は日本一のマンモス私大である。16学部86学科、学生数7万人である。私の経験則に従うなら、民主的な運営がきわめて難しい規模の組織だということである。事実、日大にはその歴史の中にきわだった2人の独裁者を数える。
1人目は終戦後、飛躍的に日大を大きくした「大学中興の祖」古田重二良(じゅうじろう)である。私たちの世代の人間にとっては「古田会頭」の名は、日大闘争の「悪役」として日大全共闘の伝説的な指導者秋田明大の名前とともに忘れがたく記憶されている。
古田は児玉誉士夫とも住吉会ともつながりがあり、学生運動を弾圧するために学外の右翼やヤクザまで動員して、「関東軍」や「桜魂会」といった反時代的な名称の部隊を編制して、全共闘の学生に対して激しい暴力をふるったという。
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