「身近な死」の瞬間を映像にした作品が伝えたい事 人は死をどのように受け入れ最期を迎えるのか
東洋経済オンライン / 2025年1月11日 8時15分
「新聞記者時代から自分が関わってきたのは、災害や事故などによる死であり、予期しないものだった。でも、多くの人はそうではなく、病気や老衰などで死んでいく。もっと身近にある死について知りたいと思った」(溝渕監督)
そんな普通にある死を追い、カメラにとらえたいという思いが、映画づくりにつながった。
映画では、終末期を迎えた患者が何人も登場する。もちろん許可を得たうえだが、溝渕監督はそんな彼らにカメラを向け続けた。
その1人は半年前に進行したがんが見つかった80代の女性。治す手立てがないとわかったとき、最期はホスピスでと決めた。
ホスピスとは、治る見込みのない病気を持つ患者やその家族を支えるために、医療とケアを提供する施設やサービスを指す。入院しているのは主にがんや慢性疾患の終末期の患者となる。
ホスピスでの入院の主な目的は、患者が人生の最期をできるだけ穏やかに、快適に過ごせるようにすること。病気の治癒を目指すのではなく、痛みや苦しみを和らげ、生活の質(QOL:Quality of Life)を向上させることに重きを置く。
そんなこといっても、しんどい
女性は、日本を代表するホスピス医である細井順さんがいる、ヴォーリズ記念病院のホスピス病棟へとやってきた。
病室で細井さんに「そんなこというたかてな、えらいもんはえらい」と訴える。えらいというのはこの地域の方言で、「しんどい」という意味だ。
心身のつらさ、どうしようもなさを「えらい」と訴えながら、女性は右手を伸ばす。その手を握るのは細井さんだ。「大丈夫」と訴えかけるように手をさする。
女性はそういうとき、細井さんら医療スタッフに笑顔を見せる。そして「しあわせです。ありがとう」と感謝の言葉を口にする。
それからまもなくのこと。女性は家族に見守られながら旅立った。
溝渕監督は、「病院で人が死ぬ時代に生きてきた私たちは、人の最期を学ばなくなっている。だから死におびえながら死んでいくのだろうと想像してしまうが、実際はそうではない」と話す。まさにこの女性のように……ということなのだろう。
映画では何人かの「死に向かう」人たちにカメラが向けられる。
もう1人は、進行がんを患い、余命いくばくもないと診断され、大学病院から転院してきた男性(74歳)。病棟にいる患者や医療スタッフと車いすで出かける。目的は桜。もう見ることはできないだろうと言われていた花見ができると、桜の木の枝を持って笑顔で男性は写真撮影に応じる。
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