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「身近な死」の瞬間を映像にした作品が伝えたい事 人は死をどのように受け入れ最期を迎えるのか

東洋経済オンライン / 2025年1月11日 8時15分

絶望と怒りでいっぱいだった男性

映画の中では描かれていないが、実は男性はホスピス病棟へやってきたばかりのとき、絶望感と怒りでいっぱいだった。当時を振り返り、溝渕監督はこう話す。

「男性は、治って元気になるために、大学病院でつらい化学療法(抗がん剤による治療)を受けてきたわけです。でもついに打ち止めになってしまう。そのときには、治療の副作用で体はボロボロ。自宅に帰りたくても帰してもらえない。それらが怒りになっていたと感じました」

撮影許可は得たものの、カメラを向けてもやり場のない怒りは収まらなかったという。

だが、そんな男性の表情も徐々に和らいでくる。

「24時間みんなやさしくしてくれる」と男性が言う。ホスピスで手厚いケアを受けていると、自分が“死にゆく存在である”ことを一瞬忘れさせてくれる。

細井さんは映画のなかでこのようなことを話している。「だからこそ痛みの治療は大事。だけれど、それがゴールではない。症状を取ってあげるところからがスタート」と。

一般的に、終末期の患者には「4つの痛み(苦痛)」が生じると考えられている。身体的痛み(病気そのものや治療の副作用などによる苦しみ)、精神的痛み(病気に対する不安、死への恐怖、孤独感や抑うつなど)、社会的痛み(仕事や家庭、経済的問題によるストレスや孤立感、役割の喪失感など)、スピリチュアルな痛み(自分の生きてきた意味」や「死の意義」に悩む、宗教的・哲学的な苦しみ)だ。

男性は身体的な痛みだけでなく、さまざまな苦痛のため怒りが湧いていた。それらの苦痛がホスピスでの生活で緩和され、怒りの消失にもつながったのではないだろうか。溝渕監督は言う。

「痛みが緩和されると、死への恐怖に支配されなくなる。代わりに願いや希望だったり、祈りだったりみたいなものが生まれてくる」

命の大切さについて考える場に

落ち着きを取り戻した男性は、「最期は自宅で」という願いを叶える。自宅に戻った後の4週間を、妻や孫などの家族や、近所に住む友人たちと過ごし、息を引き取った。

「僕の映画が映し出すリアルな死が、命の大切さについて考える時間を深めていったり、その副作用として人にやさしくできたり、自分や大切な人の死への悲嘆に備える準備ができたりすることにつながればうれしい」と溝渕監督は言う。

冒頭の男性のように、「バンザイ」と感謝して人生を終えるにはどうすればいいか。映画からその答えのヒントが見つかるかもしれない。

今村 美都:医療福祉ライター

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