3回の「初代大統領」を務めたモンゴル人政治家 モンゴルの移行期を背負ったオチルバト大統領の軌跡
東洋経済オンライン / 2025年2月1日 16時0分
まず、1990年7月に実施されたモンゴル初の自由選挙によって改選された国会で、「モンゴル人民共和国の初代大統領」に任命された。2回目は1992年1月に制定された新憲法に基づき、その特別条項第2条に従って「モンゴル国の初代大統領」になった。国名の変更を跨いで初代を2種類経験したのである。
そして3回目は、1993年6月の大統領選挙の結果、「直接選挙による最初の大統領」となった。以来、今日まで直接選挙によって大統領が選ばれており、一般に言うところの初代大統領とはこの3つ目を指している。さまつに思われるかもしれないこうした事実こそ、彼がまさに「移行期」を生き抜いた政治家であることを表している。「移行期」を背負うことになった歴史的タイミングをさして、自伝のタイトルは『天の時』になるのである。
私は彼から、生まれ故郷を出て社会主義時代に鉱業部門で活躍し、モンゴル国初代大統領になるまで、すなわち1942年から1993年までの半世紀についてインタビューすることができた。彼の人生をたどれば、20世紀後半のモンゴルという国の生き様もわかるに違いない。
以下、当時のインタビューに基づいて彼の言葉を紹介し、追悼文としたい。なお、敬意を十分に込めながらも敬語を略した平叙文でつづることをお許しいただきたい。
故郷を出て母と2人でウランバートルへ
オチルバト氏は1942年、モンゴル国西部のザブハン県トゥデブテイ郡ボンハントというところで生まれた。彼の父は高僧で、還俗して結婚した。
彼が5歳のときに父が亡くなったため、母と2人で首都ウランバートルに移住した。幼かった2人の弟はそれぞれ親戚に養子に出された。父は亡くなるとき、「息子を学のある人間にしておくれ!」と頼んだそうだ。新しい時代の新しい学問を身につけるには首都に行くしかない。
「当時はラクダのキャラバンで移動しますからね。…地元の2家族と一緒に移動しました。うちは家畜を数頭とゲルや家財道具を売って、荷役用のラクダを1頭、乗用の馬を1頭、道中の食料にしたり、ウランバートルに着いたら売ってお金にして食いつないだりするためのヒツジを数頭連れて故郷を出たのです。私はラクダに積んだアラグ(燃料用の乾いた牛糞を集めるための籠)に乗せられて来たのですよ」
「7月の半ばに地元を出て、9月の初めにウランバートルに着きました。途中1カ月以上かかりました」
「ザブハンからウランバートルまでは、ハンガイ山脈から流れ出る流れの急な水量の多い川を何度も渡ります。アルハンガイにチョロート川という流れの急な、よく知られた川があります。その川を渡った時のことは今でも忘れられません。ラクダは水が大の苦手でしょう。川岸から離れてちょうど川の真ん中まで来ると、ますます水音が大きくなってきてラクダが浮き上がってしまうような気がしました。母は馬に乗って川を渡りました。私は『お母さんが馬から落ちてしまうかも!』と心配で、ラクダに積んだアラグの中で立ち上がって川を渡っていく母の背を見つめていました。けれど母は『息子よ、アラグから落ちてしまうよ!』と川を渡っていく馬の上から振り返り、振り返りしていました。母と子がこうして互いのことを心配しながらいくつもの川を渡ったのです。私は幼かったけれども、幼いなりに母のことを気遣う強さがあったのです」
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