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全員「元会社員」ケーキ職人の平均年齢は75歳 1978年創業の味を守り続ける中目黒「ヨハン」

東洋経済オンライン / 2025年2月8日 15時0分

ヨハンの仕事は決して楽ではないため、職場では「具合が悪かったり、病院に行ったりする時は最優先で休む」ことが共有されている。しかし、小林さんは26年間、長く病欠することもなくキッチンに立ち続けてきた。「仕事を辞めたいと思ったことは一度もない」と語る86歳を支えるのは、驚くほどの体力だ。

「健康のために、ウォーキングをしています。月に2、3回、地域の仲間たちと散歩会に参加して、12キロほど歩いているんですよ」

この健脚が、キッチンでの立ち仕事に活かされているのは間違いないだろう。「それはすごいですね……!」というと、小林さんは「ははは!」と軽やかに笑った。

35年間アメリカに住んでいたオーナー

ここに登場した7人のほか2名、計9名の職人を束ねるヨハンの3代目オーナー、和田さんはアメリカに留学した18歳から2023年、54歳まで現地に住んでいた。

大学卒業後、メディア業界で働きながら永住権を取得。アメリカに渡って16年、ようやくビザの縛りから自由になった和田さんに、ある日、エージェントから電話がかかってきた。

「あなたは日本語が書けますか? 読めますか?」

「当たり前でしょう」と答えた和田さんの言葉が真実かを試すテストが行われた後、そのエージェントの紹介で始めたのが、「ドキュメンタリービュー」。日本人や日本企業がアメリカで裁判沙汰になった時、現地の弁護士事務所からの依頼で資料や証拠として提出された日本語のドキュメントをすべてチェックし、裁判に必要なものを選り分け、時には要約まで手掛ける仕事だ。それまでとまったくの畑違いの仕事だったが、フリーランスで働けることに魅力を感じ、新たな一歩を踏み出した。

すぐに複数の弁護士事務所から依頼を受けるようになり、ニューヨークでの暮らしも安定。仕事が忙しくてヨハン創業者の父、利一郎さんの死に目に会えなかったという後悔と、医師の仕事をしながら店を継いだ母の博子さんが衰えてきたこともあり、2020年頃から1年に3カ月ほど日本で過ごすようになった。

とはいえ、日本には友人も少なく、時間を持て余すように。それを見かねた博子さんから「ちょっと見てきて」と言われて、ヨハンに顔を出すようになった。高校時代、たまに遊びに行った程度で、アメリカに住み始めてからはずっと他人事のように感じていたヨハンが、少しずつ身近な存在になっていった。

勝っている時は作戦を変えない

18歳から30年以上アメリカで生活してきた和田さんの思考は、日本より現地の文化に馴染んでいる。ある時、博子さんから従業員について「こういうことがあった」とよくない話を聞いた和田さんは、なんの悪気もなく「クビにすればいいのに」と言った。店に不利益をもたらす人を雇い続けるのは合理的ではないという、アメリカでは誰も疑問を持たないような判断だ。

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