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全員「元会社員」ケーキ職人の平均年齢は75歳 1978年創業の味を守り続ける中目黒「ヨハン」

東洋経済オンライン / 2025年2月8日 15時0分

しかし、博子さんは「日本では、そういうやり方はしない」と和田さんに言って聞かせた。母親の言い分に疑問を抱かないでもなかったが、日本ではそういう考え方をするのかと新鮮でもあった。

いま振り返れば、日本に長期滞在するようになった和田さんをヨハンに導き、日本の文化に沿った考え方を説いた博子さんは、やがて訪れるバトンタッチの時を見据えていたのかもしれない。2023年1月、博子さんが亡くなると、和田さんはアメリカでの仕事を畳んで、ヨハンの経営を受け継いだ。

「長く働いているお店の従業員たちがいるのに、ここを引き払って、はい、さようならなんて、ちょっとできないですよ。だから、僕にできるところまでやりましょうと」

高齢者を雇用し続けるメリットは? 元気な若者を雇ったほうがいいのでは? と感じる読者もいるかもしれないが、和田さんは「やり方を変えない」という道を選んだ。それは、和田さんにとって合理的な選択だ。

「勝っている時は作戦を変えちゃいけないんですよ。今までちゃんとやってこれたんだから、このままでいいんじゃないですか」

もちろん、なにもかも現状維持というわけではない。ここは変えるべきだと思ったことは、ハッキリと口にする。例えば、博子さんは現場に任せるタイプで、どのケーキを1日に何個作るのかは職人たちに委ねられていた。そのため、予測が外れて在庫が積みあがることも少なくなかった。

そこで和田さんが目を付けたのは、店頭で接客をしている女性陣。売り子としての経験から、何曜日に、あるいは季節によってなにがどれぐらい売れるのか、精度の高い情報を持っていた。女性陣の見立てに合わせて製造スケジュールを立てようと伝えると、職人たちは抵抗した。

「突然アメリカからやってきて、こいつなに言ってんだと思ったでしょうね(笑)」

この時、和田さんは「失敗しても僕のせいだから」と、半ば強引にスケジュールを決めた。すると、みるみるうちに在庫が減った。このような改善を積み重ねて、「なんとなく信じていただけるようになったのかな」。

経営はトントンでいい

職人たちには「行間を読んでくれるだろう、気持ちをくんでくれるだろうという期待はしないでください。言葉にして言ってくれないとわからないから」と伝えている。一方で、ついアメリカ式のストレートな物言いをしてしまい、「今のいい方はよくなかったかな……」と反省することも多々あり、いかにして自分の意図を伝えるのか、試行錯誤が続く。

名刺の受け渡し方、印鑑の扱いなど日本特有のビジネス習慣も知らないことばかりで、「いまだにアメリカから日本に出張に来ている感じ」と表現する和田さん。それでも、ヨハンの経営には手ごたえを感じている。

「父はこの店がトントンでいいんだって言っていたし、僕もそれでいいと思います。これまで通り家族的な雰囲気のなかで、潰れないように頑張るだけですよ。ありがたいことに、お客さんのおかげで今もちゃんとトントンですし。誰かしら、空の上から見守ってくれているんじゃないんですか」

アメリカ帰りのオーナーと、平均年齢75歳の職人たち。創業から47年変わらないヨハンの味は、彼らが守り続ける。

川内 イオ:フリーライター

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