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熊本地震から8年 死者の8割を占めた災害関連死の教訓から学ぶ

ウェザーニュース / 2024年4月14日 5時10分

ウェザーニュース

2016年4月14日に発生した熊本地震から8年。今年(2024年)も1月1日に令和6年能登半島地震、さらに4月3日には台湾東部の花蓮沖を震源とするマグニチュード(M)7.7の地震が発生し、沖縄県内各所で津波が観測されました。

熊本地震では強い揺れによる建物の倒壊や土砂崩れなどによる「直接死」と呼ばれる被害に加えて、その4倍を超す「災害(震災)関連死」が報告されています。

熊本地震から8年にあたり、災害関連死がなぜ起こってしまうのか、またどう防ぐかなどについてまとめてみました。

熊本地震では災害関連死が直接死の4倍超

熊本地震では2016年4月14日発生の前震がM6.5、16日の本震がM7.3を観測。共に最大震度7の大きな揺れを生じ、熊本県のまとめでは直接の地震被害による死者が50人、重軽傷者が2376人、住家の損壊が約20万棟に達しました。

余震の多さも熊本地震の特徴で、前震・本震から半年間で約4000回発生しました。長期にわたる余震の揺れが避難生活者のストレスにつながり、災害関連死の増加を招いたともみられています。

さらに「災害が原因で死亡したと認められた」災害関連死が2024年3月13日時点で218人と、直接死の4倍を超えています。このほか2016年6月に発生した豪雨による被害のうち、「熊本地震との関連が認められた」死者も5人となっています。

2011年3月11日に発生した東日本大震災の死者・行方不明者は約2万人でした。内閣府の災害関連死認定はうち3794人でしたから(うち1263人について詳細調査を実施)、熊本地震では災害関連死の比率が極めて高かったことがわかります。

肉体的・精神的負担が影響か

熊本県は熊本地震の「震災関連死の概況について」の調査結果を2018年に初めて公表し、以降随時データを更新してきました。直近(2021年3月時点)の状況は、以下のとおりとなっています。

性別では男性が115人(約53%)、女性が103人(約47%)と、ほとんど差はありませんでした。

年代別では最も多いのが80歳代の75人(34.4%)で、70歳代の46人(21.1%)、90歳代の45人(20.6%)、60歳代の31人(14.2%)が続きます。70歳代以上の方は計169人(約78%)でした。

既往症があった方は218人中190人(約87%)と大きな割合を占めていました。疾病では「呼吸器系の疾患」が63人(28.9%)と「循環器系の疾患」が60人(27.5%)と多く、「自殺」も19人(8.7%)となっています。

原因区分別では「地震のショック、余震への恐怖による肉体的・精神的負担」が112人(40%)と最も多く、「避難所等生活の肉体的・精神的負担」の81人(28.9%)、「医療機関の機能停止等(転院を含む)による初期治療の遅れ(既往症の悪化及び疾病の発症を含む)」の14人(5%)、「社会福祉施設等の介護機能の低下」の9人(3.2%)が続きました(複数回答のため計280件)。

地震発生からの経過日数では、3ヵ月以内に亡くなられた方が177人(約81%)と多く、1年以上のちに亡くなられた方も5人(2.3%)いました。なお、亡くなった場所では「病院に入院中や入院後」が85人(39%)、「自宅等」が81人(37.2%)でした。

熊本県はこれらの結果をふまえ、災害関連死に至った主な原因を「高齢者等の要配慮者の方が、避難所など慣れない環境の中で長期間の避難生活を強いられたことによる肉体的・精神的負担が考えられる」としています。

災害関連死を防ぐための5つのポイント

能登半島地震でも4月2日現在、死者245人のうち15人が災害関連死とされ、今後も避難生活の長期化による影響が懸念されているところです。

「日常と違う避難所生活でも、できる限り規則正しい生活を心がけるといった基本的なことが大切です」と日本大学医学部附属板橋病院救命救急センター科長の山口順子先生は話します。

さらに、災害関連死に対する具体的な5つの予防ポイントについて、山口先生に解説して頂きました。

(1)できる限りの水分と食事の補給(トイレ対策も)


避難生活ではまず、食糧や水の不足が大きな問題となっています。

「不安やストレスで食欲がなかったり、避難所に十分な量と質の飲食物が届かないことに加えて、被災者の方自身も不安やストレスで食欲がわかないというケースが多くみられます。

そんな状況下であっても、できるだけ食事は摂って体にエネルギーを蓄えることを心がけてください。食欲がない時でも甘い物や汁物などを積極的に摂るようにしましょう。

塩分の摂り過ぎは高血圧、糖分の摂り過ぎは血糖値の上昇によって糖尿病を悪化させる可能性を高めます。栄養成分の確保と栄養バランスの向上につながる、色々な種類の食品を組み合わせて食べることをおすすめします。

アレルギーなど食物に対する困りごとは遠慮せず、周囲のボランティアや避難所のスタッフ、医療・保健関係者に積極的に声をかけ、相談することも必要です。

水分を摂ることも大切です。飲み物が手元にあったらできるだけ飲むようにしてください。冷たいペットボトルのミネラルウォーターは飲みにくいので、少し温めると接種しやすくなります。

水分が不足すると脱水症状はもとより、便秘、低体温症などを起こしやすくなります。さらに血栓ができやすくなってエコノミー症候群の原因となったり、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こしたりする可能性も高まります。

特にお年寄りは、トイレ事情を考慮して水分の摂取を遠慮してしまいがちです。周りの人のほうから積極的に水分補給をうながしてください。トイレが使いやすいように衛生管理を徹底してスタッフ任せにせず、避難者自身でいつも奇麗に使えるようにすることも心がけてください」(山口先生)

(2)エコノミー症候群対策(少しでも体を動かす)

水分の摂取不足に加えて、車中泊の長期化などでもエコノミー症候群が不安視されています。

「脚を4時間程度動かさないでいると静脈に血栓ができやすくなり、立ち上がった時に流れた血栓が肺に詰まることがエコノミー症候群の原因でもあります。車中泊は行わないのがベストです。やむを得ない場合でも、車内に留まる時間はできる限り短くしてください。

狭い車中での長時間滞在に限らず、避難生活中はどうしても体を動かす機会が減りがちです。床に座っている時も健康と体力の維持や気分転換のために脚や足の指、かかとを動かし、室内や屋外で歩いたり軽い体操を行ったりしてください。

寝転がったままでも脚を動かしたり、ふくらはぎをマッサージしたりすることは効果的です。できる限り行うようにしてください」(山口先生)

(3)感染症対策と口腔ケア


多くの人が集中する避難所生活では、感染症のまん延も大きな不安材料のひとつです。

「国立感染症研究所は避難所で広がりやすい感染症として、インフルエンザなどの急性呼吸器感染症やノロウイルスなどの感染性胃腸炎・急性下痢症、咽頭結膜熱を挙げ、注意を呼びかけています。

避難所では飛沫(ひまつ)などによって感染症拡大のリスクが高まります。新型コロナ感染症の流行時と同様、自身が感染しないように『手洗い』と、他人にうつさないために『マスクの着用を含む咳(せき)エチケット』を励行してください」(山口先生)

熊本地震の「災害関連死の概況」では、呼吸器系の疾患によるものが多いことが報告されています。

「呼吸器系疾患の予防策として、口の中の健康状態を良好に保つ口腔ケアも重要です。口の中の細菌が唾液や胃液と共に肺に流れ込む誤嚥性肺炎によって、命が失われるケースも少なくないからです。

手元や支援物資に口腔ケア用のウェットティッシュがあれば、口の中をぬぐってください。汗をかきやすいわきの下や手のひら、足の裏などをぬぐうことで爽快感も得られます」(山口先生)

(4)ストレスのケア


ストレスも災害関連死につながる大きな要因です。

「熊本地震でも東日本大震災後などと同様、専門的な研修と訓練を重ねた災害派遣精神医療チーム『DPAT(Disaster Psychiatric Assistance Team)」』が、被災者の心のケアに取り組みました。

DPATのスタッフは、様々なストレスや不安による『心の不健康』への対応策として『まず、正確な情報を入手すること』を挙げています。SNSなどに投稿される『人が人に対する怒りや不満』は、気づかないうちに自分自身のストレスともなりますので、気に留めずスルーしたほうが無難です。

眠れなくなったり不安感を抱いてしまったりすることは、災害などのショックを受けた際には当たり前のことですので気にせずに。ほとんどの心の変化は時間と共に回復していきます。

飲酒は控えて、イライラが強まった時などは深呼吸をしてリラックスし、家族同士・近所同士で助け合い、人と人とのつながりを大切にしてください。信頼できる人に話を聞いてもらうことは心を軽くするのに役立ちますが、無理に話す必要はありません。

気になることがあったら遠慮せず、避難所の相談窓口や巡回スタッフに声をかけるようにしましょう。 薬や安静が必要なこともありますので、医師や看護師、保健師にも気軽に相談してみてください」(山口先生)

(5)服薬の継続(処方薬を備蓄)


能登半島地震では年末年始期間中の発生だったことから、高血圧や心臓病など持病がある人たちの処方薬不足が問題になりました。

「能登地震にも熊本地震にも災害救助法が適用されています。災害救助法には『災害処方箋』制度が定められており、病院やかかりつけ医のクリニックへ行けなかったり、お薬手帳を所持していなかったりしても救護所などに駐在・巡回する医師から災害処方箋が発行されて、最寄りの薬剤師から調剤してもらえます。

持病の薬を服用している方は事前にかかりつけ医に相談のうえ、処方薬を備蓄用として多めに処方してもらい、非常用持ち出し袋に詰めておくよう習慣づけるのもいいでしょう。食物のストックオプションと同じで、薬も処方日が早い順から飲むようにしてください」(山口先生)

熊本地震から8年の4月14日をきっかけに、万が一の際の災害関連死予防策について考え、実行できることは早速行ってみてはいかがでしょうか。

参考資料
熊本県危機管理防災課「平成28年熊本地震に関する被害状況について」、内閣府「災害関連死事例集」、同「災害関連死について」、同「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」、日本栄養士会「災害時の栄養・食生活支援ガイド」、厚生労働省「「避難生活で生じる健康問題を予防するための栄養・食生活について」、東京都福祉保健局「災害時の『こころのケア』の手引き」

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