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【化学会社が、なぜ電子メガネ?】三井化学の成長戦略

財界オンライン / 2021年9月21日 15時0分

タッチセンサーに触れるとメガネレンズ内の液晶が稼働し、遠近が切り替わる三井化学の次世代アイウェア『タッチフォーカス』

「環境そのものが変わったので、内部環境のみならず外部環境を見直して、2030年を目指した長期経営計画を策定しました」──。三井化学社長の橋本修氏は、今年6月に発表した長期経営計画「VISION2030」についてこう語る。2016年に2025年を目指した10年間の長期計画を策定した同社だが、5年を経て再策定した長期計画はどう変化しているのか──。


三井化学社長
橋本 修
Hashimoto Osamu
1963年10月生まれ。87年北海道大学法学部卒業後、三井石油化学工業(現三井化学)入社。2014年理事経営企画部長、15年執行役員、17年常務執行役員ヘルスケア事業本部長、18年取締役常務執行役員、19年4月取締役専務執行役員、20年4月代表取締役社長執行役員に就任。


産業構造の変化は
成長のチャンス

 ─ 新型コロナウイルスの第5波もあり、先行き不透明ですが、直近の業績から聞かせて下さい。

 橋本 はい。昨年の4、5月が底で、マーケットの戻りに合わせて業績も改善してきたという状態です。ただ、中身を見ると、まだら模様になっています。

 例えば、昨年は医療用ガウンやマスクなど衛生材製品が不足していたので、その原材料となる不織布需要が好調でした。現在、その需要は一巡したので、不織布関連はスローペースになり、その代わりにロックダウンが解除されたので、歯科材料やメガネレンズ材料の需要が戻ってきています。

 基盤素材事業の石化・基礎化学品は昨年4、5月原料安で、在庫評価損が大きくなりましたが、現在は原料の値上がりにより在庫評価益が出る状況です。一部製品の市況も締まってきており業績もかなり改善されました。
 したがって、基盤素材事業の回復に加え、市況の影響を受けにくい、成長3領域と呼んでいるヘルスケア事業、フード&パッケージング事業、モビリティ事業も業績が底上げされている状態です。

 今の見立てですと、2022年3月期、成長3領域だけで1000億円近い営業利益が出そうなので、われわれがやってきたことが間違いではなかった証明になっているかと思います。

 ─ 三井化学の得意領域を挙げるとしたら?

 橋本 例えば半導体についていえば、あれもこれもやるのではなく、自分たちの得意な領域や技術を磨いてきたものが残っています。

 ヘルスケア事業の歯科材料では、2013年にドイツのHeraeus 社から歯科材料分野の子会社Kulzer を買収し、PMIで苦労しましたが、これもうまく立ち上がってくるなど、過去取り組んできたことの成果が今につながっています。

 ─ 歯科材料事業が軌道に乗るまでにかかった時間は?

 橋本 6〜7年ですね。 われわれの関係会社のサンメディカルに歯が欠けたときにそれを接着させる歯科用接着剤「スーパーボンド」という製品がありますが、2020年に歯科材料メーカーの松風との業務・資本提携強化を目的に持株比率を20%まで上げて関係強化を図り、事業全体が有機的につながってきました。

 しかも、歯科材料の世界は金歯、銀歯といった金属から、樹脂への転換が進んでいます。

 さらにデジタル化が進み、入れ歯も口の中をスキャニングして、それを元に3Dプリンティングで作っていく世界になってくるなど、電子化の動きが一気に進んでいます。

 こうした変化をグループの3社が受け皿となり、8年前のKulzer 買収時に思い描いてきた世界が現実になりつつあります。

 ─ それができるのも、材料に強みを持っているから?

 橋本 はい。材料の存在は一番大きいですね。

 例えば、先ほど申し上げた歯科用接着剤「スーパーボンド」は、接着力が極めて高いという非常に特殊なもので、そこをベースにKulzer の販路を使いながら事業を拡大しています。

 ─ モビリティ事業領域も伸びていますが、ここの強みは?

 橋本 自動車産業はCASE( Connected、Autonomous/Automated、Shared、 Electric)、軽量化やCO₂削減など、100年に一度の変換期といわれています。

 われわれもそれに対応するため、2017年にアークという、自動車のデザインや試作を作る会社を買収し、そこに共和工業という金型の会社も加えて、ダウンフローのバリューチェーンまで範囲を広げました。これらを有機的につなげて、自動車産業のニーズに応えられる体制を整えてきました。

 それは単に物を納めるのではなく、デザインまで含めて提案できるような体制です。

 そうすることで、軽量化に向けての提案も、素材だけではなく、構造材としての提案もできるようになります。

 今はまだ試行錯誤の状態ですが、そうした将来をにらんだ先行投資です。

 自動車関連は、アメリカと中国を中心に需要が戻っているので既存材料が堅調ですが、さらに5年先、10 年先を見て手を打っています。

積水化学の「得意技を磨き続ける」経営



橋本修 三井化学社長


化学にこだわり
社会課題を解決する

 ─ 先を見据えた投資とのことですが、中長期の戦略をどう描いていますか?

 橋本 2016年に2025年を目指した10年間の長期経営計画をつくりました。

 それまでは、1年ごとの予算と3年ないし、4年ごとの中期経営計画をセットで回していましたが、環境変化が激しいなかで、3年、4年の中期経営計画が意味をなさなくなってきました。

 そこで、1年ごとの予算をきっちり回して、2年、3年では方向性を示す。

 その代わり、もう少し長期の視点で見ていくことにしました。

 世の中がこれだけ変化しているので、行きつく先はどういう世の中なのかを想定して、方向性を共有するために長期経営計画を策定しました。

 2016年当時、われわれが言っていたのは「顧客起点型のビジネスモデル」をつくろうということでした。

 これは今も言っていることで、将来の社会課題に対して、われわれが解決策を出すことで世の中に貢献していきましょうということです。

 ただ、掛け声はかけたけれど、具体的に顧客起点型のビジネスをつくろうと言ったとき、現場は何をやらなければいけないのかについては、あまり遡求できていませんでした。

 結果として、5年経った今、われわれが想定していたスピードで、顧客起点型のビジネスモデルができているかというと、必ずしもそうはなっていない。

 経営指標を見ても、われわれが想定しているような、いわゆる成長3領域の利益比率は大きくなりましたが、利益はほぼ横ばいで成長が遅れている。

 その原因は何かというと、実行力がついていなかったという反省がありました。

 ─ 掛け声だけではなく、具体的なものが必要だと。

 橋本 はい。さらに2016年当時はカーボンニュートラルやCO₂の削減、米中貿易摩擦、人権問題が今ほどクローズアップされていませんでしたし、新型コロナウイルス感染拡大により働き方も大きく変わりました。環境そのものが変わってしまいました。

 そこで、外部環境をもう1度見直して、2030年を目指した長期経営計画を発表しました。

 ─ 具体的には、何がどう変わったのでしょうか?

 橋本 われわれが目指す2030年の三井化学の姿としては、化学にこだわって社会課題を解決する。これがコアにあり、われわれの存在意義もここにあります。さらに、サステナブルな社会を実現することで世の中に認めていただく。

 この2点を中心としたコンセプトに作り直しています。

 先程お話しした反省も含めて、具体的には、ソリューション型ビジネスモデルをつくっていくこと。もう1つは、環境対応がますます重要になることをふまえ、サーキュラー型のビジネスモデルをつくることです。

 この2つのモデルを示しながら、具体的な計画に落とし込むための議論を、いま侃々諤々とやっているところです。


ビジネスモデルの変化に伴い
外部の人材も登用

 ─ 2つの新しいビジネスモデルづくりには、発想の転換も必要ですね。

 橋本 はい。BtoB型のビジネス、すなわち材料会社はどこも同じですが、今までは材料を開発して、作って、お客様の要望に応じて材料を用意するという擦り合わせ型のやり方でお客様に製品を納めてきました。

 ところが、世の中の状況が変わっていく中で、お客様に対して同じような提案をしている限りは同じ価値でしか認めてもらえない。

 けれども、世の中は成長しているので、量が増えてきて足りなくなり、増産しなければいけなくなる。日本だけ奇跡的にデフレですが、世の中全体はインフレなので、プラントを建設したらコストもかさみ、こちらの出口を変えなければ再投資もできなくなってしまう。

 われわれが提供できる付加価値を上げてお客様に認めてもらい、社会に認めてもらい、時間軸でも10年先の社会で認めてもらえるようなものにすることが重要で、そういったモデルをつくっていく必要があります。

 それが、先ほど言った自動車のデザインまで提案したり、『タッチフォーカス』(次世代アイウェア)のように最終製品まで製造すること、あるいはお客様の先回りをして、お客様の製品イメージにわれわれの材料の知識などを加えて、もっとふくらませることで付加価値を認めていただき、ビジネスを大きくすることなどです。

 これらを総称してソリューション型ビジネスと言っています。

 ソリューションという言葉は耳障りがいいけれど、では、どの様に付加価値を高めるのかということが不明確になるので、あまり好きな言葉ではないのですが(笑)。

 ─ では、サーキュラー型のビジネスモデルとは?

 橋本 CO₂削減や環境負荷の低減は待ったなしの問題になっています。われわれも昨年11月に、会社として、カーボンニュートラル宣言をしました。

 そうすると、今までのワンウェイで物をつくって、お客さまに納品して終わりというモデルも変わってきます。

 当社のお客様のお客様となる消費者が製品を使って、そこから出てくる廃棄物を回収して、ケミカルリサイクルやマテリアルリサイクルのような形で原材料に戻していく。これがサーキュラー型ビジネスです。

 材料メーカーは、こうしたところまで考えなければいけなくなっています。

 ─ 化学メーカー1社ではなく、社会全体で取り組まなければ実現しないモデルですね。

 橋本 ええ。ただ、素材を扱っているわれわれだからできることでもあります。

 われわれが新たなビジネスモデルを創造して、社会全体にドライブをかけていかなければいけないと思っています。

 ─ そのためには外部の人材も登用している?

 橋本 はい。ここ数年は、全体の採用の半分が中途入社でした。

 BtoBのビジネスモデルから、顧客起点型のBtoPやCといったビジネスモデルに変えているので、当社の社員だけでは足りない部分がたくさんあります。自分たちがやりたいビジネスストーリーを考えたとき、自分たちの資源だけでは足りない部分があるので、外部の人材に来てもらったり、あるいはM&Aのような形で技術を買ってくることが非常に重要なポイントになっています。

 いわゆるDXも今年4月、デジタルトランスフォーメーション推進室を発足させ、日本IBMや日本電産で活躍した人材に来ていただきました。

 自分たちのやりたいことが広がる中で、今後もこういう形での人材採用は増えていくと思います。

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