心理学博士が伝授、「話が通じない人」の強すぎる鈍感力にイライラしない唯一の方法
プレジデントオンライン / 2020年11月15日 11時15分
※本稿は、榎本博明『面倒くさい人のトリセツ: 職場の“ストレス源”に翻弄されない知恵』(KAWADE夢新書)の一部を再編集したものです。
■どうにも話が通じない人の正体
なにをいっても暖簾に腕押し。こっちのいうことが、まるで通じない。そんな人が身近にいると、しょっちゅうイライラさせられる。仕事を頼んだはずなのに、なにもしていない。なんでやっていないのか理解に苦しむ。書類を修正するようにいったはずなのに、まったく修正できていない。なんで修正していないのか、その理由がわからない。
なにかにつけてそんな感じで、ふつうはそれで通じるはずの指示や依頼が、なぜか通じないことがしょっちゅうである。常識が通じない。言葉が通じない。「そこまで細かく具体的にいわないとダメなのか?」と呆れるほど話が通じない。さらにいえば、はっきり具体的に伝えたはずなのに、ちっとも通じていない。
このタイプとしばらくかかわっていると、その謎の正体が見えてくる。こちらの指示に対して、「わかりました」と口ではいうものの、なぜか無視して、それを怠る。それでも、わざと無視している感じではない。そこで、よくよく観察してみると、「わかりました」といいながらも、「?」というような表情をしている。こちらのいうことが、わからないのだ。こっちの指示をわざと無視したり、サボったりしているわけではない。指示された「内容」がわからないのだ。べつに難しいことを指示したわけではないし、わかりにくい言葉を使ったわけでもない。それでも、こっちが指示した内容が理解できないのである。
■「理解できない人間」もいることを理解しよう
報告・連絡・相談をするようにいくらいっても、なんの相談もなく勝手なことをする。あとでわかるたびに注意するのだが、いっこうに直らない。ホウレンソウがいかに大事かをしつこいくらい説明し、そのつど「わかりました」というのだが、結局、わからないようなのだ。
そこまでこちらの言葉を理解しないくらいだから、冗談も通じない。曜日によって違う相手とペアを組んで仕事するという人が、「冗談がまったく通じない人がいて、他の人だと楽しく盛りあがるのに、『そうなんですか』のひと言で終わってしまい、つまらない」とこぼす。その人物は、相手のいうことがよく理解できず、話題についていけないのだ。
■思いこみが激しく、「ものすごく鈍感」
自分の理解不足なのに、相手が悪いといって逆ギレすることもある。とにかく勘違いや思いこみが激しいため、相手のいうことがわからず、適切な対応ができない。自分の説明がおかしいのに、「それじゃ、わからないのですが……」と客から聞き直されると、「だからさっきから何度もいってるじゃないですか!」などと乱暴な言い方をする。そこで、説明が悪いのに気づいた同僚が間にはいって、客に謝罪しつつ正確な説明をすると、客はすんなり納得する。それでも、本人は自分の説明が悪かったとは思わない。これだけ状況証拠があっても、自分の不適切さに気づけない。それほどまでに理解力が乏しいのである。
このような人物を相手にしていると、話が通じず、こっちの意図も通じないため、ほんとうにイライラしてくる。このタイプを教育しないといけない立場の人は、なかなか思うようにいかないため、イライラと無力感に苛まれ、体調を崩すなどという場合も少なくない。この人を相手にするのはもう無理だと感じ、退職まで考え始めた人もいる。それほどまでに、このタイプの図太さは強烈なのである。
このタイプの特徴は、圧倒的な“鈍感力”にある。
たとえば、上からの指示をことごとく受けとめ損ねるため、周囲はイライラしているのに、本人はまったく悪びれた様子もなく、「なにをいってるんだか、さっぱりわからない。もっとわかるように指示してほしい」などと文句をいう。あくまでも相手がおかしいと思っているのだ。ちゃんと指示どおりに動かないため、上司がイライラしたり怒ったりするわけだが、「あんなにイライラすることないのに。指示もしないで怒るんだから、嫌になっちゃうよ、まったく」と、上司のことを突き放すように嘆く。
■話が通じない人のトリセツ
このようなタイプとかかわっていると、「話せばわかってもらえる」と思うのは甘いということに気づく。そこで大切なのは、ある意味で諦めることである。つまり、いくらていねいに説明しても、通じない相手もいるのだということを肝に銘じておくことである。「ちゃんといっておいたから大丈夫」などと思っていると痛い目にあう。ゆえに、何度も確認することが必要だ。
「分数がわからない大学生」「割り算ができない大学生」「%がわからない大学生」……などといわれるようになり、大学で中学・高校の復習をする時代になった。実際、1万2000円の30%引きが8400円になるということを、いくら説明してもわからなかったりする。
そのような学生もふつうに卒業し、社会人として働くことになる。%がわからない人物に増益率の話をしても通じないだろうし、割引率をめぐる交渉の話をしてもわかるわけがない。日常のやりとりも、それと同じく、この種の相手にとってはわけのわからない話になっているのだ。学校で日本語でおこなわれている授業が、まるで外国語のようにわからない生徒が増えているといわれるが、社会に出ても似たようなことが起こっている。こっちが当然、通じると思っている言葉も理屈も、むこうにとっては、まるで初めて耳にする外国語のようにまったく理解不能で、わけがわからないのである。
■宇宙人相手だと思って対応を柔軟に
結局のところ、生きている世界が違うのだ。ゆえに、頭のなかにある言葉がまったく異なるのだと心得ておく必要がある。別世界を生きているのだと思うことで、イライラもちょっとは軽減するはずだ。通じるはずだと期待するからイライラする。通じないものと思っていれば、淡々とかかわっていける。
どうしてもやってもらわなければならないことがあるときは、ふつうの相手の場合のように理屈で説明しようとしないことが大切だ。なにをどうするかを具体的に伝える。実際にやってみせる。ハウツーを意識して伝える。最近のマニュアル化の進展や、ビジネス書のマニュアル化・ハウツー化の傾向を見ると、このタイプが増えてきているのは間違いない。
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心理学博士
МP人間科学研究所代表。1955年、東京都生まれ。東京大学教育心理学科卒業。東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。『〈ほんとうの自分〉のつくり方』(講談社現代新書)『50歳からのむなしさの心理学』(朝日新書)『ほめると子どもはダメになる』(新潮新書)など著書多数。
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(心理学博士 榎本 博明)
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