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ビヨンドMBAの可能性秘める日本の「100年企業」 元中小企業庁長官が語る「温故知新」経営の強み

東洋経済オンライン / 2024年1月1日 9時0分

「自然との共生」は日本ではよく耳にする言葉だが、キリスト教のカトリックの教えとは対極にある概念だ。旧約聖書では、神は人間に自然を支配せよと教えている。人間中心の自然観だと言ってよい。

これに対し、自然と共生するという考え方はアジアひいては日本にしかない。より踏み込んでいえば神道の世界観だ。この地では、自然を支配できると考えることは人間のおごりだと見なされる。

理念と合わせて100年企業の創業者が重視しているのが信頼だ。従業員や顧客、株主、地域といったステークホルダーとの信頼関係である。

――100年企業に限らず、温故知新を実践している企業はありますか。

長野県伊那市に伊那食品工業(1958年創業)という寒天を製造してきた会社がある。

同社には「右折禁止」のルールがある。車で来社した人が右折して敷地内に入ろうとすれば、前方から来た車や、後続の車列を一時的に止めてしまう。朝の通勤時間にこの現象が何度も起きれば地域社会に多大な迷惑が及ぶ。だから通勤時間に車で来た人は敷地をぐるっと回って左折して入る。このルールを徹底している。

それで従業員が嫌な顔をしているかというと、そうではない。創業者(現在の最高顧問)が掲げてきた理念は「リストラなしの年輪経営」。どんなに苦しくてもリストラや給与カットはしない方針を貫いてきた。理念が徹底しているから創業者と従業員の信頼関係は厚い。従業員たち毎朝、社内や観光客が入るスペースを自主的に掃除している。

理想論を唱えているようで、伊那食品工業は創業以来48年連続で増収増益を達成した。近年はコロナ過で増減があるものの、ゆっくりと着実に成長している。

伊那食品工業のような温故が備わった企業は、不況や自然災害などの危機に強い。温故は持ち堪える胆力になるからだ。いかに経営能力が高くても、胆力があるとは限らない。100年企業には温故(胆力)と知新(能力)の両方が備わっているというのが私の見立てだ。

伊那食品工業の経営理念を学びたいと、同社にはトヨタ自動車をはじめとする大企業の経営幹部らが毎年訪れている。

血統主義にはあらず

――老舗企業には同族経営、ファミリー企業が多いという印象があります。

そう捉える人が多いが、正しくない。 100年企業の中には、ガバナンス上の問題で創業家の人間を追放した会社だってある。

ファミリー企業には2型ある。1つは創業家の血統を維持するファミリー。欧州の老舗企業は血統主義を優先する。

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