アングル:リスクオフは「現金化ステージ」に、株式と債券の同時安
ロイター / 2020年3月13日 7時52分
金融市場でリスクを回避しようとする動きが次のステージに入ってきた。株式から債券など安全資産に資金をシフトさせる段階から、どの資産も売られる現金化の段階に移行しつつある。写真は2015年4月、東京で撮影(2020年 ロイター/Issei Kato)
伊賀大記
[東京 12日 ロイター] - 金融市場でリスクを回避しようとする動きが次のステージに入ってきた。株式から債券など安全資産に資金をシフトさせる段階から、どの資産も売られる現金化の段階に移行しつつある。保有資産のリスク割合の均等化を図るリスク・パリティ・ファンドなどが、ボラティリティー(変動率)上昇を受けて資産売却に動いているほか、企業や金融機関が現金確保を進めているとみられる。
「キャッシュ・イズ・キング」──。各国は矢継ぎ早で政策を打ち出しているが、恐怖感が強まるマーケットに対して今のところ効果は乏しい。
<リスク・パリティの動きが一因か>
金融市場で、これまでと違う景色がみられた。株式と債券の同時安だ。11日の米市場では、米経済対策への期待が後退する中、ダウ<.DJI>は過去2番目の下げ幅となったが、これまでなら安全資産として買われていた債券も売られたのだ。
その一因になったとみられているのが、リスク・パリティ・ファンドだ。システム(アルゴリズム)系のプレーヤーで、各アセットのボラティリティーを均等化(パリティ)する戦略をとる。
相場が上昇基調のリスクオン時に株式増・債券減、その逆のリスクオフ時には株式減・債券増とすることで、相場急変時の損失を最少化させる。さらにボラティリティーの上下によって、ポートフォリオ全体の規模も増減させるため、ボラティリティーが上昇すれば、株式と債券、両方を売却する。
代表的な株式のボラティリティー指数であるVIX指数<.VIX>は、新型コロナウイルスへの警戒感が強まる1月後半までは12ポイント台の低水準だったが、足元は53ポイント台と、2008年のリーマン・ショック以来の水準に上昇。債券のボラティリティーも米10年国債<90VOLUS10YT=RR>でみて過去最高レベルに達している。
アライアンス・バーンスタインの債券運用調査部長、駱正彦氏は、まさしく11日の米市場で株式と債券の同時売却が起きたとした上で、「リスクオフが進行する中、現金化の動きが広がっている」と指摘する。
同様の動きは18年2月にもみられた。当時は、リスク・パリティ・ファンドによる資産売却だけでなく、低いボラティリティーに賭けていた上場投資商品(ETP)の価格が急落、早期償還も相次いだことで、「ボラティリティー・ショック」となり、大幅な資産価格の調整が起きた。
<企業と銀行も現金化急ぐ>
企業と銀行も保有資産の現金化を進めているとみられている。
米航空機大手ボーイング
「企業が金融機関からの資金調達を急いでおり、それに備えるために、金融機関は流動性の高い米国債や株式を売却し、現金化を急いでいる。ボーイングのクレジットライン(融資枠)の話は、そうした動きが加速するのではないかとの警戒感を強めた」(外資系投信)という。
新型ウイルスで損害を受ける企業は米国でも増えている。米カリフォルニア州やニューヨーク州は非常事態宣言を発令。「自粛」が拡大する中、企業活動や個人消費が弱まる懸念が強まっている。
トランプ米大統領は11日、中小企業などに向けた500億ドル規模の低利融資による支援策も明らかにした。中小企業局には、影響を受けた企業への資金・流動性供給を指示する方針だ。ただ、全米に広がる影響に対し、十分かどうかは不明だ。トランプ大統領の演説後、株価は大幅に下がっている。
<市場が織り込む米ゼロ金利政策>
マーケットは一方向で進むわけではない。債券が売られ、金利が上昇すれば魅力は回復する。米国債はリスク資産から流出したマネーの受け皿となっていたが、10年債利回りが0.3%台まで急低下したことでマネーは「行き場」を失っていた。金利が上昇すれば、最も安全で最も流動性が高い米国債に投資家は回帰するだろう。
だが、11日の米市場では「中長期投資家が、新型コロナウイルスへの恐怖心から、株式と債券のエクスポージャーを両方落とし、現金を積み増している」(国内証券)との指摘が聞かれた。恐怖感に包まれたマーケットでよくみられる光景だ。
米10年債金利は反発したといっても0.8%付近。マーケットはFRB(米連邦準備理事会)のゼロ金利政策を織り込もうとしており、投資家に魅力的な金利水準の回復は難しいかもしれない。
米利下げが投資家のリスク選好度を回復させることができるかも不明だ。FRBは3日に、0.5%ポイントの緊急利下げを行ったが、ダウの下落は止まらず、2日終値から11日まで3150ドル(11.7%)下落した。
たとえ危機に見舞われても、いずれバリュエーションに基づく投資や資産間の裁定などが機能するようにマーケットが回復することは、歴史が示している。ただ、それまでどのくらい期間が必要かはわからない。投資家の耳にいま響いているのは「落ちるナイフを掴むな」の相場格言かもしれない。
(編集:久保信博)
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