アングル:増え続けるFX投資家、新興国通貨投資に2つのリスク
ロイター / 2022年3月15日 11時43分
FX(外国為替証拠金取引)を行う日本の個人投資家が増え続けている。ドル/円だけでなく、高金利や値動きの良さが魅力の新興国通貨も依然として人気だ。だが、新興国通貨にはウクライナ情勢と米利上げの2つのリスク要因が強まっている。写真はトルコリラの紙幣。アンカラの両替所で2021年10月撮影(2022年 ロイター/Cagla Gurdogan)
浜田寛子
[東京 15日 ロイター] - FX(外国為替証拠金取引)を行う日本の個人投資家が増え続けている。ドル/円だけでなく、高金利や値動きの良さが魅力の新興国通貨も依然として人気だ。だが、新興国通貨にはウクライナ情勢と米利上げの2つのリスク要因が強まっており、今後は、資源国とそれ以外の国で明暗が分かれるとの見方もある。
<過去最高の口座数>
最近の外為市場では「ミセス・ワタナベ」の名を聞くことは少なくなったが、実はFX個人投資家の口座数は右肩上がりで増加している。金融先物取引業協会が公表している店頭外国為替証拠金取引データによると、2021年10―12月期は976万3863口座で、過去最高を更新中だ。
今年2月の取引金額は前月比6.3%増の538兆円。ウクライナを巡る地政学リスクが高まる中でも増加した。最も取引金額が多い通貨ペアはドル/円で全体の61%、次いで英ポンド/円が9.3%、ユーロ/円が9.2%となっている。新興国通貨は、豪ドル/米ドルが7位、ニュージーランド(NZ)ドル/円が8位となっており、人気は健在だ。
口座数増加の背景には、投資環境の変化や、スマホなどデバイスの普及、少額で始められる手軽さ――などがあると、ニッセイ基礎研究所の上席エコノミスト、上野剛志氏は分析する。低金利環境の中、手軽かつ少額で始められるFX投資の人気が高くなっているという。
メキシコペソ/円は16年以前は30―40位台で推移していたが、徐々に取引量が増加し、22年2月の通貨ペア取引金額で10位に上昇している。直近では、ウクライナ情勢の緊迫を受け「米国がロシア産原油の輸入を禁止すると発表した前後では、メキシコペソ/円の約定金額が大きく上昇した」と松井証券のマーケットアナリスト、瀬麻衣子氏は話す。
<2つのリスク>
しかし、新興国通貨には下落リスクが高まっている。1つはウクライナ情勢を巡る地政学リスクの高まりだ。新興国通貨は高リスク通貨が多く、マーケットのリスク回避傾向が強まる局面では、過去にも大きく売られてきた。
米国の金融引き締めも大きなリスクだ。国際決済銀行(BIS)によると、新興国全体の米ドル債務は21年7―9月期で4.2兆ドル。南アフリカやアルゼンチン、ロシアは減少しているが、トルコやチリ、サウジアラビアなどの伸びが高い。米国の利上げはこうした国の利払い額を増加させるおそれがある。
前回、米利上げが始まった15年以降は、新興国からの資金流出がみられ、トルコリラや南アランド、メキシコペソなどが下落した。15─16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では18年12月以来の利上げが確実視されている。
「欧州に比べ米国はロシアからの影響が小さい。FOMC後のパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の会見では、インフレへの対応を優先するとの発言が出れば、タカ派的な印象になるのではないか」と三井住友銀行のチーフ・マーケット・エコノミスト、森谷亨氏はみる。
<資源輸入国には試練>
トルコリラ/円は金融先物取引業協会のデータで全通貨ペア中20位と上位ではないが、値動きの良さから個人投資家には根強い人気がある。
1年ほど前からトルコリラ/円の取引をしている福島県在住の男性は「昨年12月にエルドアン大統領の発言を受けてトルコリラが乱高下した際は、反対売買を仕掛けて利益を出せた」と話す。米利上げやウクライナ情勢悪化を受けても、トルコリラの値動きの軽さが魅力だといい、今後もトルコリラ/円の取引を続ける予定という。
ただ、トルコは石油の93%、天然ガスの99%を輸入するエネルギー輸入国だ。通貨安は輸入価格をさらに上昇させるため、資源輸入国の経済を痛撃する。足元で、商品価格が軒並み高騰する中、トルコリラ/円は下落を続けている。トルコの政策金利は14%と高いが、2月の消費者物価指数は前年比54%上昇だ。
宮城県在住の会社員の男性は、トルコリラの取引を止めた。高金利に魅力を感じて10年以上前からトルコリラ/円の取引を中心に行っていたが、昨年末のトルコリラ暴落やウクライナ情勢の悪化をきっかけに手を引いた。現在は、豪ドル/円やニュージーランドドル/円など資源国通貨を手掛けているという。
バークレイズ証券の為替ストラテジスト、ラムスレン・シャラブデムベレル氏は、「インドやトルコなど、資源輸入国にとって、資源高は経常収支の悪化につながる」と指摘。過熱気味の商品価格は波乱含みだが、資源国とそれ以外の国の通貨で明暗が分かれる可能性があるとの見方を示している。
(浜田寛子 編集:伊賀大記)
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