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焦点:コールレート抑制に動く日銀、付利連発で揺らぐマイナス金利政策

ロイター / 2021年11月17日 17時23分

 11月17日、日銀がコールレートの上昇抑制に向けた取り組みを進めている。写真は2016年9月、都内の日銀本店で撮影(2021年 ロイター/Toru Hanai)

和田崇彦 木原麗花

[東京 17日 ロイター] - 日銀がコールレートの上昇抑制に向けた取り組みを進めている。新型コロナウイルス対応特別オペ、特別当座預金制度と相次いで導入された制度を利用し、地方銀行がコール市場での裁定取引を活発化。翌日物金利は0%をうかがう動きとなったが、日銀はプラス圏への浮上を容認せず、銀行への口先介入を強めたもようだ。特別当預制度で付利対象となる当座預金の上限を引き下げたことも、地銀の資金調達意欲を後退させる可能性がある。

日銀は金利の低位安定のみならず、金融機関収益にも目配りしてきた。しかし、金融機関に付利を実施する一連の施策がコールレートの押し上げ要因になったことで、エコノミストからはマイナス金利政策の根幹が揺らいでいるとの指摘が出ている。

<地銀の裁定取引が活発化>

9月以降、無担保コール翌日物の加重平均レートが0%をうかがう動きがたびたび見られている。9月9日にはマイナス0.006%まで上昇、2016年4月14日以来の高水準となったほか、10月8日にはマイナス0.008%まで上昇した。

背景には日銀が打ち出した2つの異例の政策がある。1つは昨年、新型コロナの感染拡大を受け、企業の資金繰りを支援する目的で創設された新型コロナ対応オペ。オペの利用額の2倍が金利0%のマクロ加算残高に追加されるのみならず、利用額に応じた上乗せ金利が支払われるようになったことで、地銀を中心に利用が急増した。

マクロ加算残高の上限値が引き上げられることで、銀行はマイナス金利で資金を調達してもマクロ加算残高に積んでおけば0%で運用可能となり、利益が出る。さらに、利用額に応じて0.1%の付利が実施され、プロパー融資なら0.2%の付利が与えられるため、理論上、無担保コールレートがプラス圏に入っても、例えばプラス0.1%未満なら利益を得られる。

日銀の「東京短期金融市場サーベイ」では、地銀・第二地銀の無担保コール市場での資金調達サイドの取引残高は7月末時点で15兆円となり、前年7月末の8兆円の約2倍となった。

地銀がコール市場で資金を取る動きを一段と活発化させたのが、昨年導入が決まった特別当座預金制度だ。経営統合などによる経営基盤強化、もしくは日銀が示した経費率の改善度合いをクリアした金融機関を対象に当座預金に0.1%の特別付利が実施される。9月積み期から特別付利の適用が始まったことで、市場ではコールレートの上昇観測が浮上。10月上旬に0%に迫ったことで、ある地銀は当面はレートが高止まりする可能性があるとみていたという。

    <コールレートのプラス転換は阻止>

しかし、コールレートの上昇は続かず、足元ではマイナス0.030%付近で推移している。複数の関係筋によると、地銀のコール市場での資金ニーズが強いことを受け、日銀がコールレートの上昇抑制に動いているもようだ。

日銀はマイナス金利政策の下、短期政策金利をマイナス0.1%と決めており、無担保コールレートのプラス圏浮上は容認しない構え。金融市場調節に影響を与えないという特別当座預金制度の趣旨に基づき、地銀には高めの金利で資金を取らないよう促す一方、都銀にはコール市場に資金を多めに出すよう求めているとみられる。

16日には特別当座預金制度の見直しを発表。コロナオペの利用促進で当座預金が膨張した結果、地銀に支払う付利が想定を上回ることになったため、特別付利の対象となる当預の上限を引き下げた。

コール市場での地銀の活発な資金調達で、地銀の中には調達したいタイミングで資金を調達できるか警戒感が出ていた。制度変更によって、ある地銀の関係者は過度の調達意欲が後退し、金利の上昇圧力が緩和されるとみている。

一方、特別当預の見直しには経過措置が設けられ、年度内は10月積み期の当預が上限になるため「コールレートの上昇圧力はまだ続く」(アナリスト)との見方も出ている。

<複雑化する政策、機動力欠くとの指摘も>

黒田東彦総裁は15日の記者会見で、コロナオペや特別当座預金制度によってコールレートに上昇圧力が掛かるなどの副作用が出ていないかとの質問に「現在の長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)付き量的・質的金融緩和のもとで、適切なイールドカーブを維持するということが行われており、コールレートに対する副作用があるとは考えていない」と述べた。

しかし、総裁会見の翌日に日銀は特別当預制度の修正を決めた。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニア・マーケットエコノミストは「地域金融機関のマクロ加算残高の増加により、マイナス金利政策の安定運用に問題が生じる可能性が出てきたためではないか」と指摘。「無担保コールレートがプラス金利に上がるようなことがあれば、マイナス金利政策の目的が阻害されるに等しい」とした。

東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは、コールレートの上昇圧力について、日銀の政策が複雑化していることが背景にあると指摘。今後、例えば円安けん制のために短期金利を少し上げようとしても「3層構造で複雑化した日銀当座預金をどう扱うかなど、いろいろ考えないといけなくなる」と述べ、「簡単には金利を上げたりできない」とみている。

日銀は早ければ12月の金融政策決定会合で、来年3月が期限のコロナ対応特別プログラムについて延長の是非を決める。仮にコロナオペが来年3月で終了となれば、マクロ加算残高の上限が急速に引き下がることになり、マクロ加算残高を活用してコール市場で資金を調達してきた地銀の関係者は警戒感を強めている。

日銀はYCCの下で金利を低位安定させると同時に、付利によって金融機関収益に配慮してきた。しかし、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車氏は一連の政策が「つぎはぎになってしまって、金融政策の柱が揺らいでいる」と指摘。「何を優先するのか決めないといけない」と話す。

(和田崇彦、木原麗花 編集:石田仁志)

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