日本人が驚くフランスの「超学歴社会」。新卒採用がほぼなく、高校生の段階で「収入格差」が決まる現実
オールアバウト / 2025年1月11日 21時25分
フランスが厳格な学歴社会であることをご存じでしょうか。自由でのびのびとしたイメージが強いフランスですが、学歴・ディプロマの有無がその後の社会的地位や職業選択に大きな影響を与えています。
フランスの若者と日本の若者の違い。それは、「高校生の段階で人生の行く先を決めなくてはならない」点にあるでしょう。
フランスは、日本とは比べものにならないほどの学歴社会です。義務教育は3歳から始まり(2019年までは6歳から)、大学へ進学するためには、「バカロレア」と呼ばれる国家試験に合格していることが条件になります。
高校生で、早くも人生の岐路に立たされるフランス
バカロレアとは、高校卒業前の6月に実施される「高校卒業資格試験」のこと。フランスの国民教育省が管理する国家試験であり、2024年には54万人を超える高校生たちが受験しました。この試験に合格すれば、フランスでは誰でも大学に進学することができます。日本のように高校の学校名が学力の指標になることはなく、大学ごとの入試制度も存在しません。バカロレアには、以下の3種類があります。
・普通バカロレア:文学、経済・社会、科学の3つのコースに分かれている。大学に進学するために必要
・技術・工業バカロレア:IT系、ホテル業・外食産業系、健康・福祉系など専門職希望の場合
・職業バカロレア:パティシエなど、手に職をつけてその道を極めていきたいという生徒たちに向けたもの
この中で、普通バカロレアを取得して大学に進学した場合は、3年後の大学卒業時に「バカロレア+3」のディプロム(修了証)が授与されます。さらに修士課程、博士課程を修了すると、それぞれ「バカロレア+5」「バカロレア+8」のディプロムを得ることができます。
「バカロレア+5」に関しては、将来的に管理職など責任ある地位を目指す場合にとても重要なディプロムです。逆に言えば、ディプロムがあるかないか、そしてその種類によって、将来の給料や昇進の全てが変わります。フランスという社会は、努力でのし上がっていけるような「叩き上げ社会」では決してないのです。
ちなみに、2024年のバカロレア合格率は85.5%に達しました。2005年の合格率は63%でしたから、この数字からもバカロレア取得がどれほど重要視されるようになってきたかが分かります。
つまりフランスの高校生は、どの進路を選ぶにせよ、このバカロレアの取得を目指して必死に勉強する必要があるのです。ディプロムが将来の選択肢を広げる上で重要な役割を果たしているとはいえ、10代の高校生がここまで厳格に進路を決めなくてはいけない現実は、日本ではあまり見られないものではないでしょうか。
もちろん、大学の卒業にも相当な勉強量が必要です。途中で夢を諦めてしまう学生が少なくないことは、誰の目にも明らかでしょう。
エリートコースはさらに難関
さらに、フランスには「グランゼコール」という学校が存在します。グランゼコールとは、フランス独自の「高等教育機関」のことで、歴代の大統領や首相、官僚、大企業の幹部に多くの出身者を輩出している学校です。手短に言えば、フランスを動かす人材を集めた「エリート養成学校」となります。ただしグランゼコールに入学するには、バカロレアで高得点をマークし、さらに2年間の「グランゼコール準備級」を修了している必要があります。学費も非常に高額なため、その人数はフランスの全学生のうち、わずか数%程度だといわれています。進級や卒業はフランス最難関。しかし出身者は、高級官僚や経営者、大手企業の幹部など周囲からも注目を集め、その将来を嘱望されます。
実際に、フランスの現大統領であるエマニュエル・マクロン氏もグランゼコールの出身者です。誤解を恐れずに言うのなら、フランス社会の上層部に行けば行くほどグランゼコール出身者が多くなり、事実上「彼らがフランスを動かしている」ことになります。
フランスがここまでのエリート社会になった背景には、大きく分けて2つあると筆者は思っています。それは、保守的な人々による「貴族意識」の名残と、第二次世界大戦後の高度成長期です。
大戦後のフランスでは、国営化された自動車産業や航空産業、石油産業などのトップに、グランゼコール出身者が続々と配置されました。そしてこの戦略は戦後の発展において大きな成功を収めます。1945年から、だいたい1980年ごろまでのことです。
フランスの人々はこの時代のことを「ゴールデンエイジ(黄金時代)」とよく言っており、エリート教育はこれらの成功体験を基に構築されたものだと思われます。家柄などを重視する貴族的意識もまた、一部のグランゼコールに残されているのがフランスの現実です。
ディプロマによって大きく変わる給与と失業率
以上のことから、ディプロマは「フランスで失業を防ぐ強力な手段」だと言えるでしょう。事実、2022年のフランスにおける失業率は7.3%でしたが、ディプロマを持たない若者の層では31%に達していました。そして、たとえ職を得たとしても、彼らの給与の中央値は約1100ユーロ(約17万9000円)にとどまっています。参考までに、フランス人の給与の中央値は、2022年で手取り2630ユーロ(約42万8600円)と報告されています。管理職だけに絞ると、平均給与は4490ユーロ(約73万1800円)でした。
とはいえ、INSEE(フランス国立統計経済研究所)が2019年に行った調査によると、大学卒業者の就職率は意外にも低い86%という結果が出ています。「あれほど勉強しなければいけないのになぜ?」と思われるかもしれませんが、これはフランスに新卒採用という特別枠が設けられていないことと、ほとんどの企業が「即戦力」として経験者を採用しているためです。
新卒者は、在学中に行う「インターンシップ」が重要であり、順調にいけばそこでお声がかかることがあります。しかしインターンシップ先で雇用されない場合は、ほかの場所で「CDD(非正規雇用者、期限付き)」として働かなくてはなりません。正社員として採用されるためには、CDDとしての働きぶり+取得したディプロマの内容が評価されるというわけです。
出身の学部を問わずに、希望した会社へエントリーシートを送ることができる日本とは大きく異なるフランスの就職事情。もちろん、就職前にドロップアウトしてしまう学生も少なくありません。フランスのデモに若者が多い理由は、こうした厳しい現実を目の当たりにしているからなのです。
時代が求める新しいスキルも
そんなドロップアウトを避けようと、フランスではディプロマ保有者の数が年々増加しています。しかし増え続けるディプロマ保有者に対しては、採用担当者も頭を悩ませているのが事実。そこで今日では、経験の有無に加え、「ソフトスキル」と呼ばれる特別なスキルが重要視されているといわれています。ソフトスキルとは、リーダーシップ、適応力、ストレスマネジメント能力、モチベーションなど、雇用主が求める非技術的スキルのこと。学校で身につけるハードスキルとは異なり、ソフトスキルは社会的・家庭的背景から生み出されることが多いとされています。
現在、フランスの採用プロセスでは、同じような学歴を持つ2人の候補者がいるとすれば、仕事にマッチしたソフトスキルを持つ人が選ばれる傾向にあります。このニーズを特徴付けるように、フランスのハローワーク「ポール・オンプロワ」では、ソフトスキルを高める1週間の研修コースが設けられています。
AIの時代に学歴はどうなるのか
一方で、一部のITワーカーの間では、こうした学歴フィルターが意味をなさない場合があるようです。アメリカの影響を強く受けたIT産業は、フランスでも急速に発展している分野の1つ。技術的なディプロムが必要ではあるものの、グランゼコール出身者のような学歴は求められていません。確かに、グランゼコールを卒業したエリートが、未来のAI時代においても本当に有能なエリートであり続けられるのでしょうか。フランスに長くはびこる格差社会、階層間の「仲の悪さ」を考えると、旧エリート層の肩身が狭まっていく可能性もあります。
世界に吹くAI旋風が、フランスの学歴社会にどのような影響を及ぼすのかは、いまだ未知数です。しかし10年、20年後のフランスには、今とは異なる風景が広がっているかもしれません。
この記事の筆者:大内 聖子 プロフィール
フランス在住のライター。日本で約10年間美容業界に携わり、インポートランジェリーブティックのバイヤーへ転身。パリ・コレクションへの出張を繰り返し、2018年5月にフランスへ移住。2019年からはフランス語、英語を生かした取材記事を多く手掛け、「パケトラ」「ELEMINIST」「キレイノート」など複数メディアで執筆を行う。
(文:大内 聖子)
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