完全な善人も悪人もいない…敗戦後のベルリンに女流作家が見た希望
ananweb / 2018年11月13日 19時0分
世の中が混乱状況に陥った時、人は自分の“善”とどう向き合うか。それを克明に描き出す深緑野分さんの『ベルリンは晴れているか』。終戦直後の1945年、他国の占領下となったドイツのベルリンが舞台だ。
「5歳くらいの頃、ニュースで人々がベルリンの壁を壊している光景が映って。母に“世界が変わる瞬間だから憶えておきなさい”と言われたことが強烈に印象に残っています」
以来、この都市に興味を持ち続けていたところ、ある時、
「終戦直後のアメリカ軍の雇用事務所でドイツ人たちがタイムカードを押している写真を見たんです。みんな敗戦を嘆くというより、照れ笑いのような表情で。こういうところに“人”が見えてくるなと思い、この時代のこの場所を書いてみたくなりました。当事者でなければ小説に書いていけないわけではないけれど、書く以上、敬意と責任を持って、調べられることは全部調べました」
戦争で天涯孤独となったドイツ人少女アウグステは、恩人の老人の不審な死を知り、訃報を伝えるべく彼の甥を探す旅に出る。偶然、道連れとなったのは陽気な泥棒カフカだ。旅先で彼女は、他国の兵士や戦争孤児ら、様々な人々に出会う。
「ロードノベル風にしてたくさんの人を出せば、読者に誰かしらひっかかる人がいるだろうと思って」
そこには完全な善人も完全な悪人もいない。ただ、みな、生き抜こうとしているだけだ。幕間にはアウグステの来し方も語られ、当時の市民生活の細やかな描写も読みどころ。執筆前にベルリンを訪れたというが、
「博物館でドイツ人のおじいさんに“君はドイツの歴史に興味があるのかね?”と話しかけられ、当時は家の湿気をとるためだけに住む“湿気とり”という仕事があることを教えてもらったりしました(笑)」
ユダヤ人をはじめ様々なバックグラウンドを持つ人々の置かれた窮地に胸が痛む。そして後半には、恩人の死に関しても驚きの真実が浮上。そこで突き詰めてくるのは、やはり善悪、そして正義とは何か、である。
「人間は弱いなと思う。善良であろうとしている人が、どうしようもない状況の中で過ちを犯してしまうこともある。その現実にひるみそうになっても、ひるまないでいくこと。それが私にとっては希望なんです」
ふかみどり・のわき 小説家。1983年生まれ。2010年「オーブランの少女」がミステリーズ!新人賞で佳作入選。同タイトルの短編集でデビュー。ほかの著書に『戦場のコックたち』など。
『ベルリンは晴れているか』戦後のベルリン。家族を失ったアウグステは米軍の食堂で職を得るが、かつての恩人がソ連領域で謎の死を遂げたことを知り、旅立つことにするのだが…。筑摩書房 1900円
※『anan』2018年11月14日号より。写真・土佐麻理子(深緑さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世
(by anan編集部)
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