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一汁一菜の前に「ステーキを焼く」という提案? 土井善晴に聞いた、料理を楽しむための気楽な“知恵”

CREA WEB / 2024年3月9日 6時0分

 2024年3月15日から全国6都市にて順次開催する「TBSドキュメンタリー映画祭2024」。そのカルチャーセレクションとして、『映画 情熱大陸 土井善晴』が上映される。

 一汁一菜を提唱する土井善晴さんに密着し、追加取材を行った映画版ではさらに深く追った。料理が苦手、なにを食べたらいいかわからない、と迷う現代の人たちに、料理の哲学を指南している。


「今日は何をつくる?」を事前に考えない


🄫TBS

――映画では全国各地をまわりながら取材をしたり、大学生や子どもたちに料理を教える様々な土井さんの姿が映されています。今回の映画をご覧になって、どんなことを感じましたか?

 客観的に自分を見ることって、こういうことでもないとなかなかないから新鮮でした。子どもたちや学生、おとな……いろんな人たちに向き合っている自分を見て、「案外ちゃんとやれてんねんな」って思いましたよ(笑)。たとえば同じ味噌汁について教えるのでも、伝え方はいくらでもあるから、相手が違ったら言い方も変えるでしょう? 考えてやっていたわけではないけど、相手に対してまっすぐ接することができてるんやなと。

――準備して台本通りに、というわけではないのですね。

 そうそう。準備しないです。料理する前とかね、ディレクターやカメラマンは「今日はなに作んねん」って知りたいでしょ。でも、ああしてこうしてって、その通りにするのはあんまり好きじゃない。今は特に34年間続いたテレビ番組(テレビ朝日「おかずのクッキング」)が終わって、縛られていたものから解放されて、自由に何を作ってもいい環境になったんです。今日はなに作ろうかな、なに喋ろうかなって、それがすごく楽しい。過去の自分に頼らないで、今の自分が作るんですから、いつも新しいものが生まれる。新しい自分が見たいのです。

――失敗することもありますか?

 時間に縛られて、無理をして、「間に合わない」「気に入らない」ことを失敗だとすれば、失敗は何度も経験しました。

 今はできることしかしない。ある時間にある食材で作るだけだから、制約がなくなって、料理の根本にある摂理を守ればいい。あとは楽しんだらいいんです。セオリーの中でいかに楽しめるかですね。ど真ん中のストライクじゃなく、コーナーギリギリのストライクを投げ込みたいみたいな感じです。人間は自分で気づくことで進化していくんです。歳を取って体力は落ちても、経験すればするほど感性は磨かれます。それを実感しています。ひとつの経験が、また新しい道を作ってくれます。

「だれが、忙しいときに、シュウマイ作るんですか⁉」


土井善晴さん。

――先生の提唱する「一汁一菜」は、まさにセオリーですよね。

 そう、基本の食事のスタイルです。何でも「型」が必要です。そこに幅ができて深さができてくるのが魅力です。お味噌汁は、湯に味噌を溶いたら味噌汁になると言うことを知ってください。昔ながらの製法で長期熟成したお味噌ならおいしいものです。そこにカツオの削りぶしを一つかみ入れれば、沖縄で親しまれる「カチューユ」です。味噌汁はカツオと昆布で出汁を取らないとおいしくならないと言うのは、間違った思い込みです。具沢山の味噌汁は、何でも野菜を入れて、肉でもベーコンでも入れて、あとは水をいれる。全てのものから味がでて、絶対においしくなります。どうぞ、やって確かめてください。トマトや、ピーマンを具にしてもいいし、出来上がった味噌汁にバターを落としてもいいのです。どうぞ味噌を信じてください。

――なんのお出汁でもいいんですね。

 はい、何からでも出汁がでます。出汁といえば、カツオ、昆布、煮干しとなるけれど、出汁というよりも食材から考えて、食べてしまえばいいです。昆布は先に小さく切っておいてもいいと思います。


©TBS

――土井さんは、どのように一汁一菜に行き着いたのですか?

 人は忙しいときに、なにもシュウマイを作ったりしないでしょう? 忙しい時に普通にしていたことが一汁一菜でした。ご飯を炊いて味噌汁さえ作れば大勢の人が食べられる。漬物は切るだけでいい。料理屋の賄いでも、我が家で忙しい時も、それでみんな大満足です。

 日本にはケハレという日常と非日常の区別がありますから、健康に生きていくための日常は、具沢山の味噌汁とご飯だけでいい。気持ちに、時間に、お金に余裕のある時に、食べたいもの、家族に食べさせたいものを作ればいいのです。すると料理は全てが楽しくなります。余裕があるときには、なんかそこに足していけばいい。

 映画の中にも出てきますが、フランスでも日常生活ではパンとチーズと水から作った野菜スープがフランスの一汁一菜です。日曜日にローストした肉の残りがあればちょっと食べるけど、ってそんなもんなんです。フランスだって忙しい時にグラタンを作ろうなんて思わない。チーズとパン、温かいスープで十分です。

――そこを基本にする、と。

 そう。一汁一菜は世界中にある暮らしの土台です。たとえば朝起きて顔を洗うのに、苦しいとか楽しいとかないでしょ。起きて顔洗って身支度してお風呂入って掃除して……そのひとつが食事、っていうことでいい。「これさえ食べていたらええ」という一汁一菜を知っていればいいんです。事実死ぬまで、ずっと三食一汁一菜で元気に生きられる。今以上に心身健康になれます。

基本を知っていれば「ステーキ」という選択肢が生まれる


土井善晴さん。

――一汁一菜のメリットは、他にどんなものがありますか。

 基本を持っていたら、あとは自分の機嫌や家族との関係性とかで、今日はこれ食べようか、って考えられるようになります。健康や栄養のことは一汁一菜に任せておいて、一汁一菜の前に肉を焼いて、ワインを飲んだっていいんです。これまでの私たちはステーキとなると付け合わせはなににしようかなって考えるでしょ。だからそこは一汁一菜に任せて、いい肉を焼くことに集中すればいい。それだけでいいって、気持ちが楽で楽しめます。料理とは本来すべて楽しいことばかりなんですよ。

――映画でもその熱意が伝わってきました。

 映画では一汁一菜に終始してますね。でもその先に、楽しいことはたくさんあります。まあ、一汁一菜でみんなホッとできた、ということだと思います。子どもでも男性でも女性でも、ひとり暮らしのおじいちゃんでもおばあちゃんでも、一人暮らしでも、料理することで、安心で、生きているという実感が持てるのです。

――一汁一菜があれば、ごはんを楽しむ余裕ができそうです。

 そうそう。楽しみは自分で見つけるものです。一汁一菜をすることでで、精神に核を持つことができる。それは暮らしの基本ですが、そこに生まれる変化に気づくということが大事です。精神に核を作れれば、変化に対して好奇心を持てるでしょう。核を持たないと、精神に広がりが生まれません。精神は好奇心によって無限に広がり、他と結ぶのです。依存する受け身体質は、心の壁になって広がらないんですよ。

土井善晴(どい・よしはる)

1957年生まれ、大阪出身。大学卒業後、スイスとフランスで料理を学び、大阪で日本料理を修業。92年に「おいしいもの研究所」を設立。NHK「きょうの料理」やテレビ朝日「おかずのクッキング」などの講師を務める。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮社)、『くらしのための料理学』(NHK出版)など。

TBSドキュメンタリー映画祭2024

全国6都市で3月15日(金)より順次開催(東京・大阪・京都・名古屋・福岡・札幌)

※土井善晴さん、舞台挨拶への登壇も決定!

映画 情熱大陸 土井善晴(東京・大阪・京都限定上映)


©TBS

「一汁一菜」、ご飯を中心に味噌汁と簡単なおかずで構成する和食のスタイル。土井は、日々の食事はこれで十分と提案し、料理を億劫に感じていた人の心を軽くする。味噌汁は出汁をとらなくてもいいし、具材に何を入れてもいい。作りやすいレシピの紹介で人気の“土井先生”だが、いま、レシピから離れる大切さを説く。料理する全ての人を応援したい…生き辛さを抱える時代に新たな暮らしの哲学を模索する料理研究家の情熱を見つめる。
予告編:https://youtu.be/4QrONYJaB-k?si=V_igFScEFpLg--_s

出演:土井善晴
監督:沖 倫太朗
https://www.tbs.co.jp/TBSDOCS_eigasai/

文=吉川愛歩
撮影=細田 忠

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