マンゴーのバラが繊細に花開くリボンで飾られたシャルロット!芸術的グラスデザートにため息
CREA WEB / 2024年4月5日 7時0分
美しく華やかで、おいしいものが彩り豊かに閉じこめられたパフェ。その人気は止まるところを知らず、美しさも味わいも日々磨きがかけられ、進化しています。
グラスの中で醸し出されるハーモニーは、まさに“parfait”(フランス語で「完璧」の意味)!
このシリーズでは、今注目の心躍る魅力的なパフェをご紹介します。
「体験というより文化」。唯一無二の味を
アンティークの家具や美しい調度品に囲まれた夢のような空間で、おだやかな空気に身をゆだねながら芸術的パフェならぬグラスデザートをいただけるのは、東京・上野毛の「ラトリエ ア マ ファソン」です。
美しくカットされ、盛り付けられたフルーツといい、スプーンを入れることをためらうほどに華やかで可憐なプレゼンテーションといい、繊細に重なり合う味わいや香りといい、極限まで磨き抜かれたその存在は唯一無二。
「東京・町田の『Café 中野屋』(現在は閉店)時代から約20年、誰よりもパフェを追い求めてきました。でも、パフェ人気も過熱し、パフェというもの自体も多様化してよくわからなくなってきてしまった。だから、パフェと呼ぶのをやめて、ここではグラスデザートと呼ぶことにしたんです」と、オーナーシェフの森郁磨さんは語ります。
森さんが生み出すのは、食べてただ単に「おいしかった」「おなかいっぱい」で終わるのではなく、その日、その瞬間の事象がすべてそのグラスデザートに紐づいて心に刻まれたり、はたまた懐かしい記憶が呼び起こされたりという、心が動くひと品。「体験というより文化に近い」と、森さんは話します。
では、この春食べてほしい森さんがおすすめするグラスデザートをご紹介しましょう。
◆プリマヴェーラ
“春”の名前を持つ「プリマヴェーラ」は、イチゴに苦みのあるフキノトウなどを合わせた、日本の春がモチーフのグラスデザート。
美しくカットされたイチゴの真ん中には、こしあんを潜ませたふきのとうのムースに桜のグラサージュ(上がけ)をかけ、琥珀糖の桜の花びらをひとひら。みずみずしいイチゴの甘酸っぱさとふきのとうの苦みが心地よいハーモニーを奏でます。
その下から抹茶のクランブルと、清々しいヴェルヴェーヌのアイスクリーム、練乳と生クリームのムースが現れ、薄いチョコレートをパリンと割れば、日本酒「花垣」のジュレと桜のジュレが。桜の花吹雪に包まれるかのように、次々と現れるやわらかな春の香りが混じり合い、やさしい余韻が広がります。
◆国産マンゴーのシャルロット、グラスデザート仕立て
グラスの上に可憐なバラが花開くのは、「マンゴーのシャルロット仕立てのグラスデザート」。「フレジエ」や「ピュイ・ダムール」、「シャルロット」といったフランスの古典菓子を、伝統を踏襲しつつ自分なりの感性やオリジナリティを加えてグラスデザートとして表現するのも、人気シリーズのひとつです。
マンゴーの熟し具合を見極めて適切な厚さにスライスし、1枚1枚貼りつけながら(!)形づくられたマンゴーのバラには、シャンパンのナパージュ(上がけ)をかけて。
ぐるりと取り囲むふわふわのビスキュイの中には、練乳と生クリームのムース、カシスのソース、鉄観音茶のパルフェ、杏仁のアイスクリーム、カスタードクリーム、コーヒーのクランブル、ライチのジュレが層を成します。オリエンタルな香りがマンゴーにマッチして、カシスの力強い果実味がアクセントに。見た目にも味わいにもうっとりしてしまいます。
◆“Trompe-I’ œil”(トロンプルイユ)2024 苺だけど苺じゃない苺のデザート
「あ!」っと驚かされるのは、「“Trompe-I’ œil”(トロンプルイユ)2024 苺だけど苺じゃない苺のデザート」です。
トロンプルイユとは、フランス語でだまし絵のこと。本物のイチゴのなかに、イチゴの形をしたソルティーライチ味のゼリーや、スミレの琥珀糖(本物のイチゴのへたつき!)が交じって絵画のように美しくあしらわれています。そして、赤いイチゴはミルクのジュレで覆って白いイチゴに、白いイチゴは赤いジュレをかけて赤いイチゴに。確かにイチゴだけど、イチゴじゃない!
「視覚からの情報と脳内の記憶の混乱を狙ったひと品です」と、森さん。「イチゴのパフェやグラスデザートはもうやり尽くして、アイデアが煮詰まったときに生まれたのが、トロンプルイユ。みんながイチゴをイメージし、その味を求めて訪れることを逆手に取って、その先入観や固定概念を裏切ってやろうということから誕生しました」。
器の中にはハイビスカスのパルフェ、エルダーフラワーのジュレ、イチゴ、スミレのリキュールに漬けたクランベリーのコンフィ、シナモン風味のクランブル、フィヤンティーヌ、ミルクのソルベが層に。クランブルと砂糖、カカオバターを和えて冷凍したザクザクの「クランブルシート」と、パリッとした薄いチョコレートが、食感のアクセントとなっています。そして、上にさまざまなイチゴ(とイチゴじゃないもの)をのせ、フローラルな香りのイチゴのソースと赤紫蘇ジュースの泡、エディブルフラワーを。イチゴの甘酸っぱさと花の香りがめくるめく花開き、夢の世界へ引き込まれていくようです。
「グラスもデザートによってふさわしいものを選び、そのグラスでなくては味わえない味や表現方法を楽しんでもらいたいと思っています。味わいに意外性は求めず、昔からおいしいと思うものをシンプルに。今回使ったふきのとうが、味の挑戦としては僕にとっては限界だと思っています」と、森さん。
フルーツを盛り付ける際の極意は、「その都度、それぞれの素材に向き合って、形や色、かたさといった特徴を生かして躍動感を生み出すこと」。「プリマヴェーラ」のイチゴも、適正を見極めて輪切り、薄切り、半割りと切り方を変え、大小を組み合わせて1枚1枚花びらのように配するという手の込みよう。ストーリーのようにていねいに紡ぎ出される繊細な美しさと味わいに、心が震えます。
ラトリエ ア マ ファソン
所在地 東京都世田谷区上野毛1-26-14
電話番号 非公開
営業時間 10:15~15:00
定休日 不定
文=瀬戸理恵子
撮影=鈴木七絵
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