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実録・人間劇場 アジア回遊編~インド・ネパール(9) 緊張と混沌、憎めないインドの日常 客引きのアミットに付き合うことにした

zakzak by夕刊フジ / 2024年4月19日 15時30分

草クリケットの試合=インド・コルカタ(夕刊フジ)

貧乏旅行者が海外ですることと言えば、街歩きと無駄話、これに尽きる。2017年、当時学生だった私は、インド東部の都市コルカタを一日中ほっつき歩いていた。旅行者に人気のレストランに行くこともなければ、観光地でツアーに参加することもない。なぜなら金がないからだ。しかし、それでも何だかんだ楽しめてしまうのがインドの魅力である。

この日、私は、サダルストリートの近くにあるマーケット前の広場で「草クリケット」を観戦していた。締まらない内容の試合だったが、一人だけ目を見張るようなスイングをする男がいたのだ。

その姿はまるで日本のプロ野球でシーズン最多本塁打を打ったバレンティン(13年、ヤクルト時代)。その男が打席に立つたびに、ものすごい打撃音とともに放たれたゴムボールがマーケットにできている人だかりを襲う。ホームランボールが買い物帰りのおばさんの肩に直撃する様子を見ながら、私は腹を抱えて笑っていた。

その「草クリケット」を私と同じく暇そうに観戦していたのが、インド人の客引きアミット。私が観戦を切り上げてマーケットに向かおうとするや否や、「何かほしいものはない?」と聞いてきた。普段なら無視をするところだが、アミットは終始まくしたててくる他の客引きと違って、とても穏やかだった。ちょうどTシャツを探していたところだし、付いていくことにした。

「Tシャツだったら君に似合うものを売っている店を知っている。付いてきてくれ」

目を輝かせながらそう言うアミットを私は小走りで追いかけた。

到着したのはマーケットの奥にある、見た感じTシャツは売っていなさそうな布地屋。

「マスターがいないみたいだから、ちょっとマーケットを案内する」

アミットは肉市場、魚市場、野菜市場と、30分以上かけ、いろんな場所に連れていってくれた。途中でTシャツが100種類はあろうかという露店が目に入ったので、商品を手に取って見ていると、穏やかだったアミットが怒りだした。

「こんな汚いものを買うんじゃない!」

そうだ、私はアミットにTシャツ屋を案内してもらっているんだった。アミットをなだめつつ、さっきの布地屋に戻るとマスターがまだいない。

「もう少しで来るからここで待っていてくれ」

アミットは私に椅子を用意し、火を付けたタバコを1本くれた。おまけに近くでチャイまで買ってきてくれた。

「これはTシャツいっぱい買ってあげないとな」

そう考えていた矢先、マスターが登場。そして、マスターは流暢な日本語で私にこう言うのだった。

「うちは布地屋なので、Tシャツなんか置いていないですよ」

■國友公司(くにとも・こうじ) ルポライター。1992年生まれ。栃木県那須の温泉地で育つ。筑波大学芸術学群在学中からライターとして活動開始。近著「ルポ 歌舞伎町」(彩図社)がスマッシュヒット。

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