『ぼくのエリ』原作者による不思議で哀しい物語 自分の中の価値観や偏見と向き合うきっかけとなる『ボーダー 二つの世界』:映画レビュー
ガジェット通信 / 2019年10月11日 12時30分
泣けるとか感動したとか、そんなありきたりな言葉では絶対に言い表せない。
10月11日(金)公開のスウェーデン/デンマーク合作映画『ボーダー 二つの世界』は、今まで誰も観たことがない、不思議で、哀しくて、恐ろしくて、パワフルな、観た後で言葉を失うほど心揺さぶられる作品です。
主人公ティーナは入国の際の荷物検査係。申告逃れや違法な物を持ち込む人を見つけるの が仕事ですが、今まで一度も間違ったことがありません。なぜなら彼女は表情や挙動ではなく、人間の感情を匂いで嗅ぎとる能力を持っていたのです。ある日勤務中のティーナの前に、謎めいた一人の旅行者が現れます。
ヴォーレと名乗るその男と出会ったときから、ティーナの運命はがらりと変わります。人里 離れた森の奥で不実な同居人と暮らす彼女が唯一心を開くことができるのは、森に住む生き物たちだけでした。ところがヴォーレは会ったばかりのティーナの孤独な心と生きづらさをたちどころに理解してくれました。しかし彼は残酷な秘密を抱えていたのです。
2018年のカンヌ映画祭“ある視点”でグランプリを受賞したこの作品は、誰もが驚きと衝撃を受けるはず。そして自分の中の価値観や偏見といったものに向き合うきっかけとなるのではないでしょうか。本作の見どころは物語だけではありません。木々の質感、草いきれ、空気の湿り気までも感じ取れるような美しい映像、そしてティーナの怒りや絶望や喜びを 表現する幻想的な音楽も深く印象に残ります。
原作は『ぼくのエリ 200歳の少女』(原作タイトル『MORSE ‒モールス-』)の作者で、 脚本も担当したヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの短編小説で、最近刊行された『ボーダー 二つの世界』(山田文訳他/ハヤカワ文庫 NV)に収録されています。本作も作者自身による脚本ですが、原作と映画ではいくつか異なる要素があり、どちらも大変面白いので、 映画をご覧になった後でも読んでみてください。嬉しいことにこの短編集では、『ぼくのエリ』の続編ともいえる『古い夢は葬って』も読むことができます。あの忘れがたいラストシーンの続きがどうなったのか、ぜひ確かめてみてください。
【書いた人】♪akira
翻訳ミステリー・映画ライター。ウェブマガジン「柳下毅一郎の皆殺し映画通信」、翻訳ミステリー大賞シンジケートHP、月刊誌「映画秘宝」等で執筆しています。
『ボーダー 二つの世界』
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