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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:ヒーローは遅れてやってくる(青森山田高・小松慧)

ゲキサカ / 2019年1月26日 17時55分

選手権決勝の後半43分、青森山田高FW小松慧が勝利を決定づけるゴール

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 5万4千の歓声が耳に届き、ノートへ落としていた視線がピッチに引き戻されると、既にラインの裏へ抜け出していた。2日前に見たのとまったく同じ光景が、目の前に広がる。その刹那。ふと、本当にふと思った。「ああ、やっぱりアイツ持ってたんだ」。数秒後。2日前に見たのと正反対の結果を自ら引き寄せた13番は、歓喜に沸くスタンドの方へ一目散に駆け出していく。しかしアレだけ外してきたのに、ここで決めちゃうのかよ。思わず笑ってしまう。アイツはやっぱり持っていた。そう。いつだって、ヒーローは遅れてやってくる。

 そのキャラクターが十分に理解できる1試合だった。昨年3月の福岡。サニックス杯決勝。短く刈り込んだ坊主頭のフォワードは、いきなり前半5分に相手のミス絡みで生じたこぼれ球へ、誰よりも速く反応して先制点をマークすると、後半3分には右サイドを粘り強く剥がしてアシストも記録。青森山田高の優勝にきっちり貢献してみせる。

 試合後に行われた表彰式が印象深い。大会MVPとして彼の名前が読み上げられると、チームメイトからも「アイツかよ」といったニュアンスの“ザワザワ”と“ニヤニヤ”が巻き起こる中、颯爽と中央に進み出て商品のスパイクを手にする。準決勝まではノーゴールだったにも関わらず、決勝の活躍だけで美味しい所をさらっていく役者ぶりが憎らしい。

 実はこの大会が“ラストチャンス”だと捉えていた。中学時代から抱える腰の分離症に始まり、2年の春先には足首を手術。さらにその年末には2度の脳震盪に見舞われ、満足にプレーすることもままならない。冬の期間は腰の具合を考慮されて全体練習から外れ、「みんなが“雪中サッカー”とかキツいことをやってる中で自分はできなくて、メンタル的にも一番キツかった時期」を経て、ようやく辿り着いたサニックス杯。しかも直前の選手変更でメンバーに滑り込んだため、大会パンフレットに彼の名前は掲載されていない。そんな状況からのMVP。まさに“持っている” という表現がしっくり来る、決勝の1試合だった。

 表彰式の直後。担当している番組用のインタビューでMVPに話を聞く。「こういうの初めてなんですよ」と嬉しそうな笑顔を浮かべてスタートしたが、良いことを言ってくれようとする上に、2年分の想いが溢れて1つ1つの回答が長くなっていく。「悪いけどそんな長くは使えないんだよなあ」と思いながら、とにかく熱い17歳を撮影する。第一印象は、まさにナイスガイ。数々のエピソードが散りばめられた3分弱を終え、坊主頭のフォワードは仲間の元へ戻っていく。実際に“3分弱”から何秒がオンエアされたのか、本人はまだ知らないはずだ。

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