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「現代の格差社会」のなかで「大金持ち」になった人たちの意外な共通点

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年3月22日 16時0分

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(※写真はイメージです/PIXTA)

現代社会は「フランス革命前夜」と同じくらいの格差があるという人もいますが、本当なのでしょうか。本記事では、お金の向こう研究所の代表を務める田内学氏の著書『きみのお金は誰のため:ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』(東洋経済新報社)から一部抜粋します。格差社会の本質について考えてみましょう。

あらすじ

キレイごとが嫌いな中学2年生の佐久間優斗は「年収の高い仕事」に就きたいと考えていた。しかし、下校中に偶然出会った銀行員の久能七海とともに「錬金術師」が住むと噂の大きな屋敷に入ると、そこで不思議な老人「ボス」と対面する。

ボスは大富豪だが、「お金自体には価値がない」「お金で解決できる問題はない」「みんなでお金を貯めても意味がない」と語り、彼の話を聞いて「お金の正体」を理解できた人には、屋敷そのものを譲渡するという。図らずも優斗と七海はその候補者となり、ボスが語る「お金の話」を聞くことに……。

登場人物

優斗……中学2年生の男子。トンカツ屋の次男。キレイごとを言う大人が嫌い。働くのは結局のところ「お金のため」だと思っている。ボスの「お金の話」を聞くために、七海とともに屋敷へと通う。

七海……アメリカの投資銀行の東京支店で働く優秀な女性。当初の目的は投資で儲ける方法をボスから学ぶことだったが、現在はボスの「お金の話」を聞くために屋敷へと通う。

ボス……「錬金術師が住んでいる」と噂の大きな屋敷に住む初老の男性。関西弁で話す。1億円分の札束を「しょせんは10キロの紙切れ」と言い放つなど、お金に対する独自の理論を持つ大富豪。

投資と世界の格差

「ずるいですよ」

口から飛び出た言葉に誰よりも驚いたのは、優斗自身だった。

でも、それが本心だったのだと思う。

(ボスの株式投資による)20億円という金額は、たしかにすごいし、うらやましいとも感じる。トンカツを1食売ったところで、せいぜいもうけは数百円。優斗の両親がどんなに働いたところで、20億円なんて絶対に稼げるはずがない。

「すごい」と言ってしまうと、両親を否定することになる。決して両親がなまけているわけではない。そこには、どうにもならない格差が存在している。

その格差を埋めるために、将来たくさん稼ぎたいと優斗は思っていた。だからこそ、担任にも以前、「年収の高い仕事がいいです」と言ってしまったのだ。

急にポンと出てきた「ずるい」という言葉には、これまで積み重なったいろんな感情が押し込められていた。そして、つまっていた栓が抜けたように、他の言葉も流れ出た。

本当に「フランス革命前夜」レベルの世界的格差があるのか

「だって、働かなくても投資で稼げちゃうんでしょ。ずるいですよ。お金持ちは、投資でどんどんお金を増やせるけど、うちみたいな家はどんなにがんばっても、投資に回すお金なんてないし」

目頭が熱くなるのを感じた優斗は、うつむいたまま話し続けた。

「お金がある人は、えらそうなこと言えるからいいですよね」

そこまで口にして、ようやく我に返った。ボスを責めてもしょうがない。一線を越えた発言を後悔して、優斗はおそるおそる顔を上げた。

ところが、ボスは優しくほほえんでいた。そして、ひとつうなずいてから、こう言った。

「僕は、格差の問題にはきちんと向き合いたいと思っている。優斗くんには、特にその話をしたいと思っていたんや」

どうして「特に」なのか、このときはわからなかった。それでも、とってつけた言い訳には聞こえなかった。彼の表情からそれだけの真剣さが伝わってきたのだ。

優斗が返す言葉を探していると、七海がこんな話を始めた。

「働くよりも投資するほうがお金を増やせるから、格差が広がり続けていると本で読んだことがあります。世界中の人を資産額で並べると、バス1台に乗る人数の大富豪が、下半分の36億人と同じだけの資産を保有しているそうです」

「えー、そんなにあるんですか⁉」

気まずさを隠すために、優斗は目を丸くして、おおげさに驚いてみせた。

「そうなの。今の格差は、フランス革命前夜と同じくらいまで広がっていると言う人もいるのよ」

フランス革命は、優斗も聞いたことがある。貧しい国民を厳しい税金で苦しめていた王室が革命によって倒された。国王と王妃のマリー・アントワネットが処刑された話は有名だ。

ところが、ボスの意見は違うようだった。

「なんや。バスに乗る大富豪がみんな悪者みたいやな。フランス革命のころと同じくらいの格差やと思っている人は、お金しか見てへん。格差はずっと縮んでいると僕は思うで」

七海はいぶかしげな目を向けたが、ボスは嘘をついてごまかす人ではない。その話の続きが、優斗は気になった。

お金の格差と暮らしの格差

「たしかに、稼いでいる所得や持っている資産の格差は広がっているかもしれん。せやけど、大事なのは、暮らしぶりやと僕は思うんや」

ボスの言葉に、優斗は首をかしげる。お金があれば、欲しいものが買えるし、暮らしは良くなるはずだ。

「お金の格差も暮らしの格差も同じじゃないですか」

ボスは少し考えてから、優斗に聞いてきた。

「優斗くんの家にはテレビはあるやろ?」

「そりゃ、ありますよ」

優斗の家には、2階の食卓に家族用のテレビがあるし、1階の店舗にも、寄贈された大型のテレビがある。

「だけど、僕はあんまり見ないです。スマホで動画を観ることが多いんで」

「今は、そういう時代やな。昔は、白黒テレビは超高級品やった。サラリーマンの給料数年分の価格やったんや。せやから、僕が小さいころは、テレビなんて金持ちの家にしかなかった。今でも僕は小さいんやけどな。ワッハッハッハ」

ボスの自虐的なセリフに、優斗は笑いを押し殺して聞き返す。

「スマホもない時代に、テレビもなかったらヒマじゃないんですか」

「大人はラジオを聴いたり新聞を読んだりしとったわ。僕ら庶民の子どもは、外で泥んこになって遊んでいたもんや。娯楽といえば、駄菓子でも食べながら、『黄金バット』の紙芝居を観ることやった」

「へえ。そんな時代があったんですね」

優斗は紙芝居を見つめる子どものボスを想像してほほえましく思った。それと同時にテレビと紙芝居の格差に啞然とした。

「庶民と金持ちで、かなりの生活の格差があった時代や。時が経って、庶民にとっての紙芝居はスマホに替わった。ほな、今のお金持ちが使っているものは何や?」

「目の前の大金持ちはスマホを使っていますよ」

「ご名答やな」

と言って、ボスはポケットからスマホを出した。そのスマホケースは黒くてシンプルで、優斗のケースよりも地味だった。

「僕は小金持ち程度やけど、大金持ちが使うのもスマホや。彼らも検索エンジンで調べ物して、SNSを使う。昔と違って情報の格差はほとんどあらへん。ネット通販も格差を減らしているやろう。使用人がいなくても家まで運んでもらえるのは、庶民も大富豪も同じや。それに、どこにいても同じ物が手に入る。その意味では、地域格差は減っているやろな」

優斗は部屋の中を見回した。この部屋にあるビリヤード台にしても、本棚に並ぶ分厚い本にしても、自分の家にはないものだが、ビリヤードが貴族の遊びというわけではないし、図書館に行けば大体の本は読むことができる。現代社会において、フランス革命のときほどの暮らしの格差があるとは言えないというのも、わからなくもない。

「それと、もう1つあるんや」

もったいぶった顔をしたボスは人差し指を立てて聞いてきた。

「今の僕の話には、もう1つ大事な事実が隠されていたんや。それには気づいたやろか」

格差を減らす大富豪

ボスは新しい紅茶を2人についでから、ヒントを出した。

「さっきの僕の話に出てきた会社には、共通点があったんや。スマホの会社、検索エンジンの会社、SNSの会社、ネット通販の会社」

やがて、答えがわかったと言わんばかりに、七海がツヤのある茶色い髪をかきあげた。

「どの会社の創業者も、さっきお話しした1台のバスに乗っている大富豪ですね」

「いやあ、大正解やな」

とボスは笑顔を見せた。喜びながらも、答えられた悔しさをにじませるところに、彼らしさを感じる。

「みんなを等しく便利にした会社の創業者が、結果的に大金持ちになったんや」

ボスの説明に、七海がため息をつく。

「そういうことでしたか。格差を縮めるサービスを提供しているのに、お金持ちだという事実だけが切り出されていたんですね」

「もちろん、金銭的な格差も小さいほうがええで。せやけど、その中身を見ないでむやみに批判するのはあかん。自分の立場を利用してずるくもうけるお金持ちと、みんなの抱える問題を解決してくれたお金持ちとでは意味が違うんや」

会社がみんなの問題を解決しているという事実に、改めて気づかされる。優斗はあの2人のことが気になった。

「エンジェル投資、でしたっけ? ボスがその投資をしているさっきの会社は、どんな問題を解決しているんですか?」

「学習支援AIの開発や。実現すれば、地方でも安くて質の高い教育が受けられるようになるやろな。未来への蓄積のためにも、暮らしを良くする会社が増えんとあかん。そういう会社が軌道に乗るまで、僕は投資によって支えたいんや」

しかし、そのボスの想いを、優斗は素直に受け取れなかった。

「でも、お金もうけも大事なんですよね? 廊下で待っているときに、聞こえてきましたよ。もうからないなら働く人を減らしたほうがいいって」

優斗の突きつけた証拠に、「そうやで」と肯定したボスは、ひるむどころか胸を張って、言い切った。

「もうからない投資は、社会への罪や」

ボスのその表情からは、ただならぬ覚悟が伝わってきた。

田内 学

お金の向こう研究所

代表

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