「運転免許の返納」に「外出自粛」…国民の空気を読んだ“まじめな高齢者”の残念な末路【医師が警鐘】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年3月14日 12時0分
クルマがなくては困る地方都市、活動しなければ衰えていく体……高齢者にとって本当に必要なものとは? 『60代からの見た目の壁』(株式会社エクスナレッジ)の著者で医師の和田秀樹氏の見解を紹介します。
高齢者をヨボヨボにする国!?
日本は高齢者から運転免許を取り上げて喜ぶ国。70歳を過ぎて運転を続ける高齢者に対して、息子や娘たちは免許返納を迫ります。世論も高齢者の運転は危ないから、「早く返納しろ」という空気をただよわせています。
百歩譲って、高齢者から免許を取り上げるなら、必要な公共交通手段を確保してからにしなければなりません。
日本で公共交通だけで、どこにでも出かけられるのは大都市圏だけに限られます。鉄道やバス路線のない地域が、日本にはたくさんあります。
公共交通があったとしても、2時間に1本しか列車が来ないとか、バス路線に至っては午前と午後に1本ずつといったところも珍しくありません。
それでは生活に困るので、モータリゼーションが進められ、とりわけ地方ではマイカー(もはや死語かもしれませんが)で移動するクルマ社会になったわけです。
そんな地域では、免許を取り上げられたら、スーパーに買い物に行くこともできませんし、病院に行くこともできません。まさに「死活問題」です。
それなのに、高齢者が交通事故を起こすたびに、テレビのワイドショーでは「高齢者の運転は危ないから、早く免許を取り上げろ」と、ヒステリックに叫んでいます。
わけ知り顔のコメンテーターも、買い物や病院に行かれなくなる問題に触れつつも、それと事故の防止は別問題だ、などと無責任なコメントを垂れ流しています。
そもそも交通事故を起こすのは高齢者だけではありません。もっとも事故が多いのは、免許をとって間もない若い人たちです。
警視庁が発表しているデータを見ればわかるように、高齢者の事故が突出して多いわけではありません。
それなのに、ワイドショーでは、「高齢者は認知機能が落ちているから事故を起こしやすい」といった根拠のないキャンペーンを張り続けています。
それもそのはずで、ワイドショーを制作しているのは、都会育ちのボンボンばかりです。ボンボンたちには、地方の現状がわかっていないのです。
田舎に住んだことがないボンボンには、免許を取り上げることがどんな非情なことなのか、肌感覚で理解することはできないでしょう。
そうした状況があるにも関わらず、22年、JR各社はローカル線の赤字路線の廃止をいい始めました。そもそも87年に国鉄が民営化されたとき、JRグループは大都市圏の路線や新幹線の利益によってローカル線の赤字路線を支えるから、もう廃止することはないといっていたのです。
それがコロナ禍で、このビジネスモデルが成り立たなくなったから赤字路線を廃止するといい出したのです。
手のひらを返すように、JRは約束を破ったわけですが、それで困ることになる高齢者のことをまったく考えていません。
「自粛要請」に従ったまじめな高齢者の末路
免許返納した高齢者はどうなってしまうのでしょうか。これには筑波大学の研究チームによるデータがあります。クルマの運転をやめて自由に移動する手段を失った高齢者は、運転を続けている人と比べて、要介護状態になるリスクが6年後には2.2倍になると発表されています。
高齢者の免許返納キャンペーンは、政府(警察庁)も後押ししていますが、いわば高齢者をヨボヨボにする政策の1つといえるのです。
もう1つ、高齢者をヨボヨボにする政策がありました。それはコロナ禍のとき、高齢者に対して、外出自粛を要請したことです。
「自粛」の「要請」がヘンな日本語であることは、養老孟司さんも指摘されていました。「自粛」は自分の意思で行動や態度を改めるというのが本来の意味ですから、「自粛要請」は正しい日本語ではないのです。
コロナ禍の期間は3年ほどでしたが、その間、真面目な高齢者ほど「外出自粛」を守り、その結果、フレイルになる高齢者が増加しました。
フレイルは「虚弱」という意味で、健常と要介護の間にある概念とされています。要は、活動量が減って筋力や体力が弱ったり、社会的に孤立してうつになったり、頭を使わないので認知機能が衰えたりする状態のことです。つまり、放っておくと寝たきりや認知症になって、要介護に移行するような人たちがフレイルです。
コロナ禍の外出自粛で寝たきりや認知症になった人は、私にいわせれば、要介護にならなくてもよかった人です。
新型コロナウイルスが蔓延しているといっても、別に家から一歩も出てはいけないということではありません。散歩に行くことくらいできたはずです。
つまり、今までどおり足腰を使っていれば、今も歩けたはずなのに、コロナの外出自粛要請を真に受けて、外に出て歩かなくなってしまったために、歩けなくなってしまったわけです。
でも彼らを責めるわけにはいきません。なぜなら、政府もマスコミも「一歩でも外に出たら感染するぞ!」と、高齢者を脅すようなキャンペーンを張っていたからです。結局これも、高齢者をヨボヨボにする政策でしかありませんでした。
まともなアタマを持っているなら、高齢者の外出を禁じたら、介護の予算も増えることになり、政府にとってもよいことは1つもないことがわかりそうなものですが、この国は政治家も役人も、そしてマスコミもアタマが悪いのでしょうか。
和田 秀樹 医師
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