面倒を看てくれた長男夫婦へ。80代亡き母が用意した「生命保険金700万円」…ちゃっかり者の妹が“保険会社のルールに則って”根こそぎ奪えてしまったワケ【CFPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年2月29日 11時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
本来、生命保険契約では、契約時に契約者によって指定された受取人が生命保険金を確実に受け取れる仕組みとなっています。しかし、今回紹介するFさんのケースでは、契約者(故人)の思いが無下にされる結果となりました。本記事では、実際にあった事例とともに生命保険契約の注意点について、FP事務所・夢咲き案内人オカエリ代表の伊藤江里子氏が解説します。
生命保険金の受取人が…
Fさんは大学卒業後、大手銀行に就職し、実家近くのいくつかの支店で、投資信託や保険などの金融商品を販売、住宅ローン相談を含む個人顧客対応でキャリアを積み、現在は銀行本部のとある部門に勤務しています。仕事において、丁寧なコンサルティングと深い知識で顧客からの厚い信頼を得て、優秀な成績を挙げ、また両親と祖母が暮らしやすいようにと、彼女が資金提供し、ローンも利用して古くなった実家を建替えするなど、家族思いで申し分のない人です。
そんな彼女が、慌てた様子で筆者のもとへ相談にやってきました。
「死亡保険金受取人が、被保険者より先に亡くなった場合、特に変更手続きをしていなければ、受取人の相続人全員が受け取りますよね? 私、いままでお客様にもそう説明してきたんです!」
一体、なにがあったのでしょうか。
※以降は、敬称を略して経緯を説明します。プライバシーを考慮し、実際の相談内容から一部変更しています。
家族関係は良好だが…問題は叔母(父の妹)
<事例>
相談者:Fさん 36歳女性 大手銀行勤務
Fさんの家族:
祖母 83歳 (20XX年6月10日ご逝去)(父方の祖母、保険契約者兼被保険者) 父 63歳 (祖母と同年6月1日ご逝去)(本件、保険契約の死亡保険金受取人) 母 60歳 (パート) 叔母 62歳 (無職)
Fさんは、本店に転勤するまで実家で両親、祖父母と一緒に暮らしてきました。
祖父は10年ほど前に亡くなったとのことですが、母は結婚以来ずっと舅姑である祖父母と同居し、祖父の介護、高齢の祖母の面倒もみてきたとのことです。
父には妹(Fさんの叔母)がいて、祖父が亡くなった際、住んでいた実家(当時評価額1,500万円程度)は父が相続し、すでに別居していたFさんの叔母は、祖父の死亡保険金や預貯金から同程度の金額を相続していました。
献身的に祖父母を支えてきた母に対し、別居して気ままに過ごして、なにかと実家に頼る独身の叔母の態度を見ながら育ってきたので、Fさんは自分がしっかり母を支えたいと常々考えるようになりました。こうした背景により、高齢になっても住みやすいよう、5年前に古くなった実家の建替えもしていたのです。
祖母が加入していた保険契約
祖母は、契約者兼被保険者として次のような契約でX生命の保険に加入していました。
1.保険金額 700万円 死亡保険金受取人 父 2.保険金額 300万円 死亡保険金受取人 叔母同居して面倒を看てもらっているという息子夫婦への思いもあって、父が受取人となっている契約の保険金額を多くしたとのことでした。
父が急な病で亡くなり、祖母も相次いで亡くなる
Fさんが本店への異動が決まったころ、すでに祖母は体が弱っていて、相変わらず介護はFさんの母が担っていました。その後、突然の病で父が亡くなり、その1週間後祖母も亡くなりました。
葬儀などが続き、Fさんにとってしばらくのあいだは慌ただしい日々だったに違いありません。
「この保険の請求手続きは、すでに完了しています」
父、祖母が相次いで亡くなり、母1人でいろいろな手続きをするのは大変でした。銀行の業務で、預金者が亡くなった際の手続き、生命保険の窓口販売にも携わっていたFさんはなにをすべきかよく知っていて、FさんがX生命の保険金請求の手続きをするために窓口へ行ったのは、2人の四十九日も終わったあとでした。
保険証券など証明できる書類を持って、窓口に行ったところ、「この保険の請求手続きは、すでに完了しています」と告げられ、Fさんは驚愕します。事情を聞くと、祖母が被保険者である契約が2つあったので、どちらも叔母が受け取ったとのことでした。
銀行でいくつかの保険会社の商品を販売してきた経験もあるFさんは、「保険金受取人は、父です。父が亡くなったので、父の相続人である母と私が正当な受取人ではないんですか?」と、聞き返したそうです。しかし、X生命の取り扱いは、これらと異なっていたのです。
保険金受取人が被保険者より前に死亡したときの取り扱い
保険法 第46条 保険金受取人が保険事故の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が保険金受取人となる。
民法 第427条 数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。
多くの保険会社では、保険金受取人が、被保険者より先に死亡した場合、変更手続きをしていなければ、保険法46条のとおり(先に亡くなった)受取人の相続人に支払うとしています。そして、民法427条により、受取割合は民法で定めている相続分ではなく均等割合としています。
しかし、保険会社は、契約(約款)で保険法や民法とは異なる取り決めをすることも可能です。「X生命」の約款では、次のように定めています。
死亡保険金受取人が「無指定状態」の場合、死亡保険金等の請求権を有する方を定めています。第1~第8順位まであり、先順位の遺族がいるときは、次の順位の方は請求権を持ちません。
1位:被保険者(故人)の配偶者
2位:被保険者(故人)の子
3位:被保険者(故人)の父母
4位:被保険者(故人)の孫
5位:被保険者(故人)の祖父母
6位:被保険者(故人)の兄弟姉妹
7位:被保険者の死亡当時、被保険者の扶助によって生計を維持していた方
8位:被保険者の死亡当時、被保険者の生計を維持していた方
(注)X生命の保険契約で、死亡保険金受取人が被保険者より前に死亡して無指定状態となっていた場合、被保険者の遺族に該当する方がいないときには、指定されていた死亡保険金受取人の死亡時の法定相続人が保険金等の受取人となります。
保険金受取人である父が先に死亡して「無指定の状態」だったので、「被保険者(祖母)の遺族」で、順番からすると「子」である叔母が受取人となり、2つの契約の死亡保険金1,000万円を受け取ってしまったということでした。
保険契約の内容に変更があったときは、遅滞なく手続きを!
保険法など法律の規定があったとしても、保険会社によって取り扱いが異なるので、今回、X生命以外の保険会社で契約していれば、Fさんとお母様が350万円ずつ受け取っていた可能性があります。
死亡保険金受取人(父)が亡くなり、契約者(祖母)も高齢で弱っているといった状況で、遅滞なく保険金受取人の変更手続きをするのは難しく、短期間で相次いで亡くなってしまったのでこのような事態を避けるのはなかなか厳しいことかもしれません。
Fさん自身も銀行窓口で保険販売をしていたので、保険会社の約款の規定に従うことは理解していて、なによりもお客様に間違った説明をしていなかったことがわかってホッとしたと同時に、改めて勉強になったと話していました。
しかし、これまで祖父母の介護などすべて母に任せっきり、独身の娘気分が抜けず兄である父に頼りながら気ままに暮らしてきた事に加えて、X生命の約款により権利があるとはいえ、祖母は本来父を受取人にしていた保険金700万円分を黙って受け取っていた叔母の振るまいを許せないようです。
つい最近(叔母が)病気で脚が不自由になってしまい、また懲りもせず、「普段の買い物をしてほしい」「介護施設へ入居を検討しているからそのときは保証人になって欲しい」と頼んできたそうです。Fさんは、「(買い物は)保険金でたくさんお金を持っているんだから、高くついても宅配で頼んでほしい。ホーム入居の際の保証人には絶対にならない!」と断ったとのことでした。
お祖母様、お父様を亡くされたFさん、お母様は、財産を一切得られなかったそうですが、叔母様との関係もキッパリと手放せたことは大きいようです。
筆者には「くれぐれも契約内容に変更があったら遅滞なく手続きすることと、加入している保険の内容はしっかり把握することの大切さを伝えて欲しい」と念押しされました。
<参考> 公益財団法人生命保険文化センター伊藤 江里子 FP事務所 夢咲き案内人オカエリ 代表
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