年金事務所職員「支払う必要ありません」…年金月17万円の65歳男性、年金未納期間分の追納を止められたワケ【CFPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年3月22日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
国民年金保険料の納付金額は、65歳以降の年金受給額に反映します。ワケあって、国民年金保険料の「未納期間」があった65歳のAさんは2年前、65歳からの年金受給額を増やすために「追納」しようと年金事務所へ。しかし、職員から、「支払う必要はありません」と止められてしまいました。いったいなぜなのか、牧野FP事務所の牧野寿和CFPが事例をもとに解説します。
早期退職→起業で貯蓄1,000万円…65歳でリタイアを考えるAさん
現在個人事業主のAさん(65歳)は、妻で専業主婦のBさん(65歳)と2人で、ある地方都市の分譲マンションに暮らしています。
Aさんは大学卒業後、大手の精密部品メーカーのC社に就職。業績が絶好調だったこともあり、40代で約1,000万円の給与をもらっていました。
Aさんが52歳のとき、C社で早期退職の募集がありました。ちょうど「別分野でも自分の能力を試してみたい」と思い始めていたAさんは、思い切って応募。C社を早期退職したAさんは、53歳~54歳の2年間は無職で過ごし、55歳から個人事業主として起業しました。
起業してから10年が経ち、65歳になったAさん。1,000万円ほどの貯蓄があるほか、夫婦あわせて月額24万円(Aさん17万円、妻7万円)受給しており、2人の子どももすでに独立。住宅ローンもすでに完済しています。「そろそろ引退してもいいんじゃないか」。Aさんは65歳で完全リタイアを考えています。
しかし、夫婦の周囲に話を聞くと、同じ年でも未だ働いている人が少なくありません。本当にいま仕事を辞めても今後の生活は大丈夫なのか心配になったAさんは、Bさんを連れて筆者のFP事務所に相談に訪れました。
日本の年金制度は「3階建て」
Aさんは筆者に、次のように話します。
「老後の生活が心配で来ました。それと、2年前に年金事務所で、国民年金保険料の未納分を追納しようとしたら止められたことがあって……。いまだに年金制度がよく理解できておらず、まずはそこから説明していただけないでしょうか」。
そこで筆者は、はじめに日本の年金制度の概要について次のようにお話ししました。
日本の年金制度はいわゆる「3階建て」になっています。1階部分は「国民年金」です。すべての国民は20歳~60歳までの40年(480月間)、この国民年金に加入する義務があります。
加入者は3種類に分かれます。「第1号被保険者」は、主に自営業や無職、20歳以上の学生と第2・3号被保険者でない人で、国民年金保険料は自分で納めます。40年間保険料を納付すると、79万5,000円(月額6万6,250円)※の老齢基礎年金が受給できます。
※ 令和5年度の額。なお、68歳以上(昭和31年4月1日以前生まれ)の方は79万2,600円(月額6万6,050円)。
「第2号被保険者」は会社員や公務員です。「国民年金」に上乗せした2階部分の「厚生年金」に加入します。「厚生年金」に加入すれば「国民年金」にも加入していることになり、保険料は給与から天引きされます。
また、受給額は、厚生年金に加入時の給与やボーナス(報酬額)と加入期間をもとに計算され、老齢基礎年金も併せた老齢厚生年金が受給できます。
「第3号被保険者」は、「第2号被保険者」の被扶養配偶者(20~60歳未満)です。主に専業主婦などで、第2被保険者の保険料で「国民年金」に加入した扱いになります。
この国民年金と厚生年金を「公的年金」といい、10年以上納付すれば、通常65歳から年金が受給できます。
なお、3階部分は、2階の厚生年金にさらに企業が上乗せする「企業年金」です。制度を導入している企業に勤めれば、退職した際に退職一時金が受給できたり、退職したあとに年金が受給できたりします。またこのほか、公務員にも「退職等年金給付」といった上乗せ制度があります。
Aさんには年金保険料の「未納期間」があった
A夫婦の年金加入と受給歴は、以下のとおりです。
Aさんは、20歳~22歳の学生時代と53~54歳の無職期間、2度の国民年金保険料未納期間があると思っていました。ただ、Aさんが持参した「ねんきん定期便」を調べてみたところ、Aさんが未納だと思っていた20歳~22歳の学生時代は、親が支払っていてくれたようです。
Aさんが20歳になったのは1978年(昭和58年)のことです。当時の学生は、国民年金への加入が任意となっていました。しかし、平成3年(1991年)4月からは、学生か否かを問わずすべての20歳以上の国民が、国民年金保険料を納めることが義務づけられています。なお、平成12年(2000年)4月からは、一定の所得基準以下の学生は、申請すれば在学中の保険料納付が猶予される「学生納付特例制度」が実施されています。
加えて、Aさんは53歳と54歳の2年間、起業準備のため無職でした。いくら起業準備といえども、本来は第1号被保険者として国民年金保険料を納付しなくてはいけませんが、Aさんはこの期間の年金も未納となっています。
しかし、Aさんは「未納だったのには理由がある」といいます。聞けば、年金事務所へ、所定の書類とともに「失業等による特例免除※」を申請していたそうです。
この特例免除の審査は、申請者・配偶者・世帯主の前年の所得を合計した「世帯収入」をもとに行われ、退職した人(Aさん)の前年所得は0円と計算されます。その結果、この2年間の保険料納付が全額免除されたそうです。
※ 失業等による特例免除の詳細は日本年金機構HP「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」を参照のこと。
55歳で起業してから60歳までは、毎月国民年金保険料を納付しました。
Aさんは、未納期間を作ってしまったことが大変気にかかっていたようです。
65歳からの年金受給額を増やすため追納を決めたAさんだったが…
62歳のころ、日本年金機構からAさんのもとに、「特別支給の老齢厚生年金」の申請書類が届きました。3ヵ月後、63歳になったAさんは、手続きをするために社会保険事務所に向かったそうです。
未納になっている保険料は、10年以内であれば遡って納める(追納できる)ことを知っていたAさんは、その際53歳から2年間全額免除になっている保険料を追納しようとしました。追納すれば、65歳からの年金受給額が増やせると思ったからです。
しかし、「職員さんが計算してくださったんですけど、『支払う必要ありません』って言うんですよ」とAさんは振り返ります。「未納期間があっても、“ほぼ満額”もらえるって言われて。まあ、理由は覚えていないんですが……」。
筆者はAさんからひととおり話を聞き、追納を止められた理由について次のように推測しました。
“支払う必要ありません”…職員が「追納」を止めたワケ
「追納」の差は月額わずか1,600円…「83歳」になるまでおトクにならない
老齢基礎年金の受給額は、以下の計算式で求めることができます。
受給額は、保険料を40年間(480月)納めれば、満額の79万5,000円です。
Aさんのように、全額免除が2年間(24月)あれば、上の計算式の「保険料納付済月数」に456月(38年)と入れ、次の「全額免除月数×4/8」に24月(2年)と入れて計算すると12月となり、Aさんは満額から1年分減額された77万5,125円を受給できることがわかります。
なお、保険料を追納する場合は、免除を受けた翌年度から数えて1~2年度は当時の保険料を、3年度目以降は一定の加算された保険料を納付します。
では、Aさんが追納したときと追納しなかったときの受給額をそれぞれ計算してみましょう(令和3年度、Aさんが63歳だった時点)。
Aさんの場合は、追納しなくても受給額が、満額の受給額とほぼ同じだったために、職員は追納を勧めなかったと思われます。
また、[図表3]の追納したときとしなかったときの損益分岐点は、
36万5,000円÷1万9,543円=18.67
65歳+18年7ヵ月=83歳7ヵ月
となり、83歳7ヵ月です。つまり、83歳7ヵ月を超えれば追納したほうがお得になるということですが、これは63歳男性の平均余命約85歳※とほぼ同じです。
※ 厚生労働省の「簡易生命表(令和3年)」より。
また、追納用の現金36万5,000円は納付するよりも手元にあったほうが、なにかと使い勝手もいいでしょう。したがって、「追納の必要はない」と言った社会保険事務所職員の意見に筆者も賛同します。
しかし、Aさんは該当しませんが、追納することによって社会保険料控除の金額が増え、翌年の納税額が下がったり、また年金受給時の所得が増え、納税額が上がったりすることも考えられます。
そのため、自身がこれまでどれくらい年金を払っていて、その結果どれくらい受給できるのかについては、老後生活の計画をたてるためにも正確に把握しておきたいところです。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員
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