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紳士の概念を広めた「人の義務について」…キケロに学ぶ立派な生き方をする方法

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年3月26日 11時15分

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(※写真はイメージです/PIXTA)

キケロが息子に宛てた手紙のなかで述べた「人の義務について」は、後の有名な哲学者にも影響を与えています。キケロの思想である4つの徳からなる「人の義務」とは、いったいどのような論理なのでしょうか。ストイックの語源となったストア派キケロの思想について、著書『超要約 哲学書100冊から世界が見える!』(三笠書房)より、白取春彦氏が解説します。

平民からなり上がった“最強の論客”の教え

『義務について』はキケロが息子に宛てた手紙で高貴な生き方をするように説くという形をとって、人の義務について述べたものです。

ただし、義務といっても、それは社会とか政治体制から課される一種の強制を内側に含んだ義務のことではなく、人生における徳について述べたものです。

それは、知恵(知性、洞察、理解、など)、正義(自分の務めをはたし、信義を守ること、など)、勇気(高潔さ、屈しない精神、など)、節度(自分の言葉と行動の秩序と限度をわきまえること、など)の4つの徳であり、それら4つはみずからの行ないとして表すべきもの、実践道徳となっています。だからキケロは、「義務こそ節操のある立派な生き方を教える源泉」だというのです。

しかし、それは他人から立派だと認めてもらいたいがための徳ではありません。そうではなく、

「われわれの探し求める徳性である。たとえ尊ばれずとも立派であり、たとえ誰からも賞賛されずとも本性的に賞賛すべきだと正しくわれわれが言える徳性である」(高橋訳以下同)

ということになります。

この徳の実践は、自分の利益にあらがう場合もあります。キケロはこう書いています。

「恥ずべきことは決して有益ではないということを確固たることとしよう。それはたとえ、有益なものを獲得できるように思うときでも変わらない。というのも、恥ずべきことを有益だと考えること、まさにそのことが有害きわまりないのである」

これを一言にすると、有益に見えることを行なうときであっても、正しさを犠牲にすることがあってはならないというわけです。

要するにストイックな生き方をすることを勧めるのですが、それも当然のことで、そもそもストイックの語源は古代ギリシアから続く哲学のストア派からであり、キケロの思想もその系譜に連なっているからです。しかも、キケロはストア派中期の哲学者パナイティオス(前185頃~前109頃ディオゲネスの弟子で、ローマの貴族たちにギリシアのストア派思想を教えた。著作は残されていない)の道徳の教えに影響された形で書いています。

脈々と受け継がれる「紳士」の概念内容

キケロの最大の功績は、ギリシアの哲学用語の大部分をラテン語に翻訳することによってローマの言語と精神に植えつけたことです。当時のローマでは、政治権力こそが最大に意味のあるものとされ、哲学などは役立ちもしないたわごととされていたのです。

もちろん、彼の『義務について』も、地域、時代を越えて大きな影響を与えました。キリスト教神学者アウグスティヌスもキケロの著作を読み、結果としてキリスト教倫理に影響をもたらすことになりました。その後、キケロは忘れられていたのですが、14世紀半ばのイタリアのルネサンスの時代に、詩人フランチェスコ・ペトラルカ(1304~1374)が古文書の中からキケロの手紙類を見つけ、キケロがラテン文化を代表する人物となってよみがえりました。

そして(ラテン語が世界共通の学術言語であった)19世紀までキケロの著作がもっとも多く読まれており、その文章がラテン語学習の教科書となって使われていました。キケロから影響を受けた有名な哲学者としては、カント、ミル、オルテガ、ハンナ・アーレントらがいます。

また、キケロこそ人文主義(ユマニスム、英語ではヒューマニズム)という概念を形成した人であり、ヨーロッパでの「紳士」の概念内容の始まりが『義務について』から生まれてきたのです。

賢人のつぶやき 命があるかぎり、そこには希望がある

白取 春彦

作家/翻訳家

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