クリニックの開業構想…どの地域にクリニックを開業するか、思い入れの土地で開業する意味とは
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月11日 8時15分
(画像はイメージです/PIXTA)
クリニックの開業にあたり、どの地域を選定するかが非常に重要になります。特に開業地域や立地は、その後の事業規模を拡大していくか否かの経営判断に大きく左右されます。開業前に決めておきたいクリニック運営のポイントについて解説します。
どの地域に開業するべきか
まず、地域をどこにするべきかを考えていきます。
1人で運営するクリニックでも、もちろん地域選定は重要ですが、それ以上に多人数での開業となると、その地域の患者さんのニーズを把握することが不可欠になってきます。とくに、診療圏内がどのくらいの規模になるのか、調査がとても重要になります。
私たちのグループのクリニックで例を挙げていきます。山形県の庄内平野に「あい庄内クリニック」があります。
診療範囲は厚生労働省が定める訪問診療の規定通り、クリニックを中心として半径16km以内としており、山形県の三川町、庄内町、鶴岡市や酒田市の一部などがこの範囲に含まれます。診療範囲の人口はおよそ18万人程度です。
当初は人口18万人の地域で開業して経営が成り立つか不安だったのですが、現在では常勤医師2人、非常勤医師7~8人で運営しており、この診療圏の在宅患者さんのうち20%のシェアを占め、経営も黒字で推移しています。
この経験が医療経営をするうえで1つの目安となっています。もし、常勤の医師が2人から5人に増えたとしても、シェアを半分ぐらいまで伸ばせば、十分に経営も成り立つと考えています。
そのため、多人数の医師でのクリニックの開業地域を考えているのであれば、診療範囲は最低でも圏内に人口10万人は必要かと考えています。
日本全国津々浦々、少しずつ在宅診療を行うクリニックが増えてきてはいると思います。「自分1人しか医師がいない」「医師2人体制で開業する」というような場合は、10万人以下でも経営は成り立つかと思います。
自分の思い入れの土地で開業
総じて、これから新規参入する方は、10万人を1つの単位として考えることをお勧めします。
訪問診療を中心に行っているクリニックが地域にいくつあるかを調べたうえで、地域を選定していくということになるのではないかと思います。
ちなみに、最初に開業したあい太田クリニックの診療範囲の人口は約80万人、前橋市のあい駒形クリニックの診療範囲人口は約120万人でした。あい熊谷クリニックは地域的に上記の2つのクリニックよりもさらに多くの人口がいることはわかっています。
ここまでは経営の視点で考えた地域選定について触れてきました。自分の故郷や長く住んでいる土地、ゆかりの地など、思い入れのない土地より思い入れの強い土地で開業するほうが、「やりがいを感じやすい」「地域に貢献したい」などといった思いを抱きやすいのではないでしょうか。
というのも、私がかつて所属していた徳洲会グループには、当時全国に53の病院がありました。そのうち半分ほどは、その土地にゆかりのある先生をリクルートし、院長に据えていたからです。その人々を見るうちに、地域への思いがいかに仕事に良い影響をもたらすかを目の当たりにしてきました。
私どもあい友会で最初に開業した群馬県太田市は、一緒に共同経営をした人に誘われて選んだ地ではありますが、いったん始めたからにはこの地を大切にしようという思いで開業しました。
その思いが発展し、近くの地域に複数のクリニックの開業につながりました。「群馬県の在宅医療を充実させていこう」という思いは、開業当初から今でも持ち続けています。
また、あい長野クリニックは私が幼少期を過ごした故郷である長野県長野市にクリニックを開きたいという思いからでした。特に群馬県にいると長野県との県境にそびえる浅間山がよく見え、その向こうにある長野県に思いを馳せるときがありました。時には「こっちに在宅医療のクリニックをつくらないでいいのか?」と問いかけられている気もしていたため、2024年1月、念願が叶って開業することができました。
あいつくばクリニック開業のきっかけも、私が大学時代を過ごし、その地の大学病院でも長く働き、現在も妻と一緒に週末を過ごす思い入れのある土地だったからです。やはりそういったところで開業するとなると、エネルギーが湧きます。
先ほど触れた山形県のあい庄内クリニックは、私が徳洲会に所属していた頃、病院長として12年間過ごしていたところでした。そのころ一緒に働いていた看護師さんが独立し、「訪問看護ステーションをつくったけれど、医者が足りない」「先生、太田だけじゃなく、この庄内にも在宅医療中心のクリニックをつくってください」といわれたことが開業のきっかけです。
修業時代の人脈を生かす
特に学生時代や勤務医時代に過ごした土地というのは、医療関係の人脈があることも多く、サポート体制や連携体制を構築しやすい、というメリットがあります。
私自身、筑波大学の講師をしていたり、地域の基幹病院に大学から派遣されていたりしたため、つくば市での開業では人材の確保やルートの構築は非常にスムーズでした。
一方の長野という土地は、生まれ育った地ではあるものの、医療関係では、私自身とはほぼ何のつながりもない状態でした。
しかし、幸い院長になってくれた方が同窓の友で、地元の基幹病院で副院長をしていたり、長野市の医師会でも副会長やっていたりと、人望と人脈があったため、患者さんの紹介や医師の獲得といった面でも、とても力となってくれました。
このように、やはり地縁はとても大事です。さまざまな力になってくれる人がいる環境というものは、とても心強いかと思います。
もちろん、それがすべてではなく、当たり前ですが、自分自身で能動的に頑張る必要はあります。とはいえ、難しい局面であってもその地域のために役に立ちたいと思えるような場所で頑張るのがよいのではないかと思います。
野末 睦 医師、医療法人 あい友会 理事長
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