【検証2017-2018年の注目車④】トヨタ「カムリ」“激変”の裏にある“数の倫理”という強力な武器
&GP / 2018年1月6日 11時0分
【検証2017-2018年の注目車④】トヨタ「カムリ」“激変”の裏にある“数の倫理”という強力な武器
“数の論理”という言葉がある。元々は圧倒的な数の多さで意見を通す状態を表す政治用語なのだそうだ。
2017-2018 日本カー・オブ・ザ・イヤーにおいて、国産車で最も上位にランクインしたトヨタ「カムリ」は、まさに“数”がひとつのキーワードとなったクルマだろう。
といっても、圧倒的な数の力で評価を押し上げたという意味ではない。商品としては避けてとおれない“販売台数”の話である。
■大胆な変身の中でも守り続けた“セダンの本質”
日本における新型カムリの販売台数は、平均して3000台/月と、決して大ヒットというわけではない(中ヒットくらいか?)。でも、世界には信じられないほどのボリュームでカムリを販売している国が存在する。それは、アメリカ合衆国。
2016年における北米でのカムリ(先代)の販売台数は、なんと38万8618台。月当たり3万台以上を販売したと聞けば、驚く人も多いだろう。さらに、北米における乗用車の販売ランキング(SUVも含む)において、カムリは15年間連続で1位をマーク。これこそ、クルマ界における“数の論理”といっても過言ではないほどだ。
もちろん、北米で圧倒的な人気を誇るからといって、それがそのまま、日本での高評価につながるわけではない。しかし、北米での人気を上手に活用しつつ、日本でも高い実力をきちんとアピールできたことが、新型カムリが高評価を得た要因といえるだろう。
まずはスタイリング。最近のトヨタ車のデザインは、どのモデルもアグレッシブだが、中でもカムリのハジけっぷりは、見ていて清々しい。先代モデルまでの日本仕様は、コンサバティブなセダンの風格であり、プロポーションはもちろん、日本を含めたアジア仕様(スポーティな北米向けとは異なり、ビジネスシーンでも使われるフォーマルなキャラクター)の顔つきは、コンサバなセダンそのものといったイメージだった。
しかし新型のルックスは、なんと若々しくスポーティなことか! セダンにパーソナル性が求められる北米市場で売れまくっているという後ろ盾がなければ、ここまで大胆な変身はできなかったはずだ。こうしたスタイルも、高く評価された要因のひとつといえるだろう。
新型カムリは、メカニズムの評価も高い。“TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)”と呼ばれる、トヨタの新しい車体設計の考え方を採用した全く新しいプラットフォームに、熱効率41%を誇る完全新設計のエンジンを組み合わせたハイブリッドシステムを組み合わせ、そのポテンシャルの高さを見せてくれた。
新しいプラットフォームやパワートレインを導入するには莫大な投資が必要で、双方を一度に刷新するのは、容易なことではない。まさに、新型カムリがこうしたメカニズムを一度に刷新できたのは、数を多くさばいて問題なく開発費用を回収できるだけの販売台数を確保できることの賜物なのだ。
日本仕様のカムリは、先代モデルに引き続き、ハイブリッド仕様だけをラインナップするが、試乗してみると、ドライブフィールが大きく向上していている点に驚かされた。
「プリウス」をはじめとするトヨタ式ハイブリッドは、加速しようとドライバーがアクセルを踏んでも、なかなか思いどおりに加速していかない、もしくは、少し遅れて加速していくという印象があった。ところが新しいカムリは、ハイブリッドシステムの概要こそ、プリウスなどと同じ“THSⅡ(トヨタ・ハイブリッド・システムⅡ)”だが、ドライバーの操作に対し、クルマがリニアに反応してくれる点が新しい。「燃費はいいけれど、走りの爽快感がちょっとね」という印象を持たれがちだったトヨタ式ハイブリッドの印象を、新型カムリはガラリと変えてくれたのだ。
そうした走りの気持ち良さには、TNGAプラットフォームのポテンシャルの高さに加え、ヒップポイントを下げてスポーティな運転姿勢に変化した、新発想のドライビングポジションも効いている。ちなみに、トヨタが導入を進めているTNGAプラットフォームには、シートの支持剛性を高めるべく、シートレールを床にすき間なく、ダイレクトに取り付けるなど、運転環境を整えるためのこだわりが語りつくせないほど詰まっていることもお伝えしておきたい。
一方、実用性に目を向けると、リアシートは足元を含めて空間が広く、リアウインドウ周辺のデザインはクーペのように伸びやかであるにもかかわらず、後席の着座姿勢はきわめて自然で、頭上空間もしっかり確保されている。カムリは、東南アジアにおいてはショーファーサルーン(後席への乗車がメインとなる運転手付きのクルマ)として使われることも多いため当然といえば当然だが、リアシートの快適性はかなりハイレベルだ。
そして、ラゲッジスペースには、ゴルフバッグ4つのほかに、中型のバッグが同時に収まる。車体後部に大きな走行用バッテリーを積むハイブリッドカーでありながら、それをいい訳としないだけの荷室容量(先代比20%増しの524L)を確保できたのは、先代からの大きな進化であるし、ユーザーとしても敏感に進化を感じ取れる変化である。そして、一部ではなく、全面が貫通する新型カムリのトランクスルー機構も、これまでのハイブリッドセダンの常識を変えてくれた。
クルマにとって数の論理とは「どれだけ売れるか?」ということに尽きる。その販売実績をバックボーンとしながら、大胆に変身。しかも新鮮さだけでなく、運動性能や走りの楽しさ、そして、実用面の高さといったセダンの本質を、大幅に引き上げてきた点こそが、新型カムリの高い評価につながったといえるだろう。
そして、新型カムリに関して個人的な驚きを付け加えるならば、それはクルーズコントロールの仕様だ。新型カムリは日本で販売されるトヨタ車として初めて、クルーズコントロールの設定速度を180km/hに設定してきた。この辺りからも、トヨタの「やっちゃえ!」感を実感させられたのである。
こうして新型カムリを見ていると「平均点主義で守りに入るトヨタ」という姿が、過去のものとなったことがよく分かる。まさに新型カムリは、トヨタのクルマづくりやクルマに対する考え方の変化(道具から愉しさへ)を象徴する1台なのだ。
(文/工藤貴宏 写真/村田尚之)
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