良いものをより安く、からの脱却/野町 直弘
INSIGHT NOW! / 2019年7月12日 9時47分
野町 直弘 / 株式会社クニエ
牛丼のチェーン大手の𠮷野家さんのコンセプトについては皆さんご存知でしょう。「うまい、やすい、はやい」です。しかしネットで調べてみますとこの「コンセプト」も時代によって変化しています。
1970年代には「はやい、うまい、やすい」だったものが、1980~1990年代は「うまい、はやい、やすい」に、そして2000年代からは「うまい、やすい、はやい」となって現在に至っているとのこと。70年代はファストフードの奔りだったことから「はやい」が第一優先に、80~90年代はバブルや美食ブームを背景に「うまい」が第一優先に。そして2000年代からは低価格競争が激化し「やすい」と「はやい」が逆になっていることなど、時代背景を反映している状況が読み取れます。
𠮷野家さんのコンセプトと同様に、今までの調達購買部門の役割・機能は「購入品のQCDの確保」と言われてきました。いわゆる「良いものをより安くタイムリーに。」ということです。
しかし𠮷野家さんのコンセプト同様に時代の変化とともに、この役割・機能も最近は必ずしもそうでなくなっていることが指摘されるでしょう。その理由の一つは、QCD以外にも重視すべきことが多くなってきていることが上げられます。
例えば最近SDGsという言葉をよく聞くようになりましたが、サステナビリティ(持続可能な)調達などはその一つです。良いものをより安く、タイムリーにだけでなく、その調達が持続可能であること、もう少し噛み砕くと持続可能性のあるサプライヤから購入すること、つまり先の3つの役割・機能に付加して、「よい取引先から買う」ということが求められています。
持続可能な「より良い取引先」と言っても様々な観点が考えられるでしょう。信用リスク、供給リスク、また必ずしも大手企業であることが、買い手企業にとって、最適なサプライヤとは言えません。こっちを見てくれているかどうかも重要な観点です。
また以前このメルマガでも触れましたが、東京オリンピックの調達コードを読んでみても様々なことが調達先に求められていることが分かります。東京オリンピック・パラリンピックの調達コードは5つの大項目(全般、環境、人権、労働、経済)で何と33項目のコードが上げられているのです。このように、従来は求められてこなかったことが求められています。
もう一つの視点ですが、そもそも良いものを買う必要があるのか、という点です。「良いもの」の定義にもよりますが、必ずしもハイスペックなものが「良いもの」とは限りません。
従来、日本企業の製品はガラパゴス化し、過当な仕様競争に奔りました。しかし、顧客はそんなことは望んでいません。
つまり本来の顧客ニーズから逸脱した仕様競争だったのです。これも有名な話ですが、アップル社はiphoneの液晶パネルに当時シャープの最先端仕様であった液晶を敢えて採用せず、解像度を落とした汎用性の高い液晶パネルを採用し、それを2社購買化しました。つまりアップルにとって「良いもの」は技術的にも納入面でもリスクが低い汎用性の高いものだったのです。
開発購買は開発上流段階でいかに適正な仕様を買えるように働きかけるか、という活動です。言い換えれば、顧客ニーズにあった無駄のない最適な仕様選定を開発者やユーザーにさせる活動と言えます。
このように考えると「良いものをより安く」ではなく「顧客ニーズに基づく適正な仕様のものを、より安く、よりスピーディに」ということになるでしょう。
これは商品仕入などの流通の世界のバイヤーにとっては、極めて当たり前の役割・機能と言えます。何故なら商品仕入は仕入れた製品が売れなければ収益につながらないからです。
「顧客ニーズに基づき、売れる適正な仕様のもの」でなければ売れません。
このように従来の「良いものをより安く」という買い方はちょっと古い概念になってしまいました。これからは「顧客ニーズに基づく適正な仕様のものを、より安く、よりタイムリーに、良いサプライヤから購入すること」が調達部門の機能であり、役割になっていくのです。
そのためには従来の概念からの脱却がその一歩となります。
つまり、これからはより幅広い機能を果たさなければならないのです。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
高度化する購買業務を支える「ACT-iAP調達・購買テンプレート」、4月より提供開始
@Press / 2024年4月18日 10時0分
-
家電業界に“黒船”本格参入 コスパ重視「Comfee’」が日本を“狙い撃ち”した理由
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年4月14日 12時49分
-
小島プレス工業株式会社が「Leaner見積」を導入、調達力強化への取り組みを開始
PR TIMES / 2024年4月8日 14時15分
-
開発担当者「社長にやれと言われたので」…元・味の素マーケティングマネージャーが見た〈ヒットが出ない企業〉の決定的特徴、5つ
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年4月8日 8時0分
-
「あすを、気にしない世の中へ」製造業中小企業の営業利益100倍、売り上げ100倍を目指します
PR TIMES / 2024年4月2日 13時40分
ランキング
-
1突然現場に現れて「良案」を言い出す上司の弊害 「気になったら即座に直したい」欲求への抗い方
東洋経済オンライン / 2024年4月26日 9時0分
-
2なぜ歯磨き粉はミント味? ヒット商品の誕生には「無駄」が必要なワケ
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年4月26日 8時0分
-
3濃口醤油と淡口醤油、塩分が高いのはどっち?…醤油の「色の濃さ」と「味の濃さ」の知られざる関係
プレジデントオンライン / 2024年4月26日 8時15分
-
4「加賀屋」50歳の元若女将が選んだ"第2の人生" 震災からの復興への道、仕事術について聞く
東洋経済オンライン / 2024年4月26日 13時0分
-
5円安、物価上昇通じて賃金に波及するリスクに警戒感=植田日銀総裁
ロイター / 2024年4月26日 18時5分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください