[岩田太郎]【弱まるアメリカの経済制裁力】~核合意は本当に対イラン経済制裁の結果か~
Japan In-depth / 2015年4月4日 18時0分
イランと米英仏中露独の間で行われてきた核協議は4月3日、最終合意の前段階の「大筋合意」にこぎ着けた。
米外交評論誌『フォーリン・ポリシー』のキース・ジョンソン記者とジャミラ・トリンドル記者は4月3日付の連名署名記事で、「最も懲罰的な経済・金融制裁がイラン経済に打撃を与え、(同国を)交渉のテーブルに引き出した」と論評した。同国に対する制裁が2010年に強化されて以来、イラン国民はモノ不足・物価高・自国通貨リアル安に苦しんできた。制裁が同国経済を疲弊させたのは、疑いない事実だ。
だが同時に、制裁に限界があることは、オバマ大統領自身が認めている。12月にキューバとの国交正常化に向けて協議を始めると発表した際、同大統領は54年にわたる対キューバ経済制裁が、同国の体制崩壊と対キューバ投資枯渇という目的達成に失敗したことを認めた。確かにキューバは苦しんだが、従わせることはできなかったのだ。イランも、戦略的に米国と合意したに過ぎない。
筆者は昨年7月、仏銀最大手のBNPパリバが米国の対イラン・キューバ・スーダン制裁に違反した疑いで、米司法当局から総額89億ドル(約1兆円)の巨額な罰金を科せられたことに関して、米シンクタンクのケイトー研究所のマーク・カラブリア金融研究部長に取材した。同氏は、「米国のイランなどに対する制裁は所期の効果をあげていない。だから米司法省は、制裁の非効率性をBNPパリバの違反問題にすり替えている」と分析した。
カラブリア氏はさらに、「(今回の)罰金額は法外であり、外国銀行は米外交政策の執行役を強制されるべきではない」との見解を示した。フランスは3月、英国など多くの米国の同盟国とともに、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に加盟申請して、米国の世界唯一の超大国としての権威に打撃を与えたが、AIIB参加は米国の「制裁破りへの厳罰」に対するある種の仕返しかも知れない。
現在、世界の国際間支払いの95%がドル建てで行われ、米財務省が目を光らせる米国内の米金融機関を経由して行われる。これが、その気になれば他国の息の根を止められる米国の力の源泉だ。だが近未来的に第二、第三のAIIBが設立され、カネは必ずしも米国を経由しなくなり、同国の「制裁力」は落ちていくだろう。
一方、ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授は1月2日付の評論サイト『プロジェクト・シンディケート』に寄稿して、「経済制裁が効果を発揮しなかった理由の一つは、一部の国が制裁に応じなかったことだ」と指摘した。
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