[神津伸子]【“24の瞳”少年・高校球児を指導する男】〜「野球は人生そのもの」江藤省三物語 1~
Japan In-depth / 2015年7月10日 18時0分
江藤の情熱が、半信半疑だった監督に伝わり、同校での野球の指導が始まった。正確には、立場上、指導とは言えないのかもしれない。彼の言葉を借りるなら「毎週、お邪魔して、アドバイスをさせてもらっている」2回目に、助言に訪れたグラウンドには、今度は同校の校長も下りて来た。江藤の本気度を確認したかったらしい。もちろん、熱意はしっかりと伝わり、熱血コーチは、毎週、同校グラウンドに通うことになった。自宅がある川崎市からは、実に片道2時間近くの道のりを、電車とバスで乗り継ぐ。
さて、同校の現在の野球部員は、たった11人。1974年に甲子園の春の選抜大会で、準優勝した“さわやかイレブン”蔦文也監督率いる徳島・池田高校を彷彿させる。自分たちも、いつの日かはと。江藤を含めた24の瞳は、未来を見据える。部員のプレーはまだぎこちなく、全く普通の高校生の域を出ない。しかし、スポンジが水を吸収するように、江藤のアドバイスが彼らに沁みていった。
「弱くても、懸命に努力する姿に心打たれ、何とかしてやりたいと思うのが人情」(江藤)監督も「別の学校で教えていた時は、選手たちを怒鳴ったりしましたが、今頑張っている子供たちを見たら、ここでは、それもなくなりました」という。どのレベルでも、ひたむきな様は人の心を打つ。身近であればあるほど、なおのこと。
しかし、3年生部員は4人なので、この夏の甲子園予選千葉県大会が終了したら、部員は7人になり、チームが成立しなくなるような部活動。それでも、監督は「他校との合同チームは作りたくない」と、他の部から部員をスカウトしたいと、情熱を見せる。3年生の中には、東京の大学に進んで、野球を続けたいと決心している部員もいる。「夢は繋がっていくもの」江藤は思っている。
プロと学生。江藤は、両方の野球を指導して来て、様々な違いを感じるという。長年の経験から様々指摘するが、それはまた次回以降にまとめる。小・中・高校生は、自分の能力や可能性にまだまだ気が付いていない選手たちが多い。指導者は、その素質、能力、可能性を見極めて、伸ばしてやる役割・責任があると考える。
子供たちには未来がある。長い間、野球を楽しむ可能性があり、楽しんで欲しい。その可能性を、大切に育ててやるのが、指導者の役目。その素質・可能性を彼らの中に、発見するたびに新たな感動があるのだと。だから、野球は一生やめることは出来ない。江藤の座右の銘は、「教学半」(教うるは学ぶの半ばたり)他人に教えるということは、半ば自分も学んでいるということ。彼の半生を振り返りながら、そのことを検証していく。
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