自衛隊に駆けつけ警護できる戦闘能力はない その5戦傷救護編
Japan In-depth / 2016年11月17日 11時0分
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
これまで述べてきたように、自衛隊は情報、火力、防御力は途上国にすら劣っている。それはこれまで実戦を想定してこなかったからで、その端的な証拠が衛生の軽視である。自衛隊の衛生はまったく実戦を想定していない。自衛隊の衛生にできるのはせいぜい平時の隊員の健康管理であり、それすらも近年は怪しくなっている。
戦争や戦闘での戦傷を前提とした医療体制を有せず、人的損害が出ないことを前提にしている組織に、まともな軍隊としての戦略の策定も、ドクトリンの構築も、装備の開発取得も、訓練もできない。せいぜい演習をこなせれば良いと思って仕事をしている。であるから、筆者は以前から自衛隊ができるのは「戦争ごっこ」にすぎないと申し上げている。
自衛隊の衛生は大きく遅れており、第二次大戦の旧軍よりも後退していると言って良い。まず個々の隊員がもつファースト・エイド・キットだ。陸自の「個人携行救急品」はPKO用がポーチを除くと7アイテム、国内用は2アイテムに過ぎない。
対して米陸軍は止血帯ポーチも勘定に入れれば19アイテムであり、約3倍である。しかも米軍が施している救急処置の訓練項目は59だが、陸自がやっているのは2項目しかない。
だが10月11日の参議院予算委員会での答弁では防衛省は「47項目を訓練している」と回答した。しかし、実技試験によって保証されている救急法検定項目は2項目であり、それ以外は各部隊長が必要と思ったらやる程度で、実際に機能し得る練度であろうはずは無く、実質止血帯の使い方しか教えていない。防衛省は意図的に国会で虚偽を述べたことになる。このような有権者の代表に対して平然と「嘘」をつく組織は信用できるだろうか。またこのようなことが平気でまかり通るのであれば、文民統制の根幹が揺るぐのではないだろうか。
諸外国では現場で応急手当を行うメディック(衛生兵)は勿論、各兵士に戦闘前にモルヒネなどの痛み止めを配布するが、自衛隊では医師法の縛りがあり、支給していない。手足がちぎれ、内臓がはみ出すような状態でも、痛み止めが支給されていないので、隊員たちはのたうち回りながら死んだり、手足を失うことなる。
人間は痛みが強すぎるとそれだけで、生命を失うこともある。痛み止めが支給されていないがために、生命を失う隊員も出てくるだろう。この恐ろしい非人道的な現状を、安保法改正に賛成した議員のどれだけが知っていたのだろうか。それで交戦を命じるのは、自衛官は他国の将兵ならば被らない痛みに苦しみ抜いて死ねと言っているのに等しい。
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