タイ自動車産業が構造不況に 日系メーカー苦境
Japan In-depth / 2017年7月30日 22時30分
遠藤功治(株式会社SBI証券)
「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」
【まとめ】
・タイ、高齢化と人口減少が加速、自動車市場は縮小傾向に。
・頼みの綱の外需である中近東や他のアジア諸国、日本への逆輸入なども期待薄。
・タイの日系自動車メーカーの工場稼働率7割を切り、今後リストラ必至。
1 はじめに
6月下旬にタイを訪れた。現地自動車市場の現状につき、日系自動車・部品各社、自動車関連のマスコミ等を取材した。タイは従来から日本車が圧倒的な存在感を示し、日本各社にとっても永らく収益の柱であった。日本企業の間では、タイ市場に寄せる期待値はなお非常に高いものと思われる。
しかし今回筆者が現地で得た感触は、この期待値とは真逆のものであった。結論から言えば、タイの自動車業界は、既に構造不況業種の仲間入りとなり、かつてASEAN最大の市場として日本各社の収益を支えたこの国は、今後は各社の足を引っ張りかねない存在にならないとも限らない、ということである。少なくとも、“高い成長率と利益率の両立”というかつてあった状況は、既に過去の話になったということである。
2 加速する高齢化
実はタイは“ミニ・ジャパン”とも言える高齢化社会であり、足元6,500万人の人口は今年から来年にピークをつけ、アジアの中では最も早く、人口は減少に向かうのである。
出生率は日本並みで、国民の平均年齢は既に38歳なのである。これは日本の45歳に比べればなお若いが、インドやインドネシアが20代前半であることを考えると、既に相当高い水準である。
2012年から2013年にタイ政府が実施した、“First car buyer incentive program(初めて車を買う人に政府から補助金が支払われた制度、但し5年間は買い換えてはいけないとの条件付)”から5年が経過、今年から自動車の代替需要の出現が期待されたのだが、現実には殆ど顕在化していない。
それどころか、販社末端ではバナナの叩き売りのような新車の乱売合戦が起きており、国内の自動車市場が回復する気配は無い。これは足元だけの状況ではなく、目の前に迫った人口減少時代を考えると、中長期的には市場の縮小局面に突入しつつあると考えられる。
3 期待薄の外需と過剰な設備
内需が駄目なら外需でということで、タイは従来からピックアップトラックの生産基地として輸出を頼みとしてきた。その状況に大きな変化はなく、今年の内需が80万台程度と、ピークの半分強であるのに対し、輸出は120万台程度と予想されていた。(図1)
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