タイ自動車産業が構造不況に 日系メーカー苦境
Japan In-depth / 2017年7月30日 22時30分
7 期待薄の輸出
前述通り、タイの人口は日本のほぼ半分、そして今年から来年がピーク、早くも人口減少の時代が始まる。図3はアジア主要国の自動車の普及率を比較したものだが、タイの自動車普及率は中国のほぼ2倍の水準まで来ている。(図3、図4)
結論は一つで、タイ国内の自動車販売台数は、今後中・長期的に減少に向かい、現在の年間80万台から、この先、60-70万台の方向に徐々に減少していく。この減少幅を輸出がどの程度オフセットするかだが、これも中々難しい。
図3: アジア主要国の自動車保有率と1人当たりGDP比較
(出所: IMF)
図4: 主要国の自動車保有台数とGDP及び経済指標比較
(出所:IMF)
近場では中近東の需要が低迷している。原油価格次第とも言えるが、楽観する材料はそれほど多くはない。近隣ASEAN域内への輸出増も機会の1つではあるが、インドネシアもフィリピンもマレーシアも、やはり輸出増加による国内生産台数の上積みを狙っており、タイだけが輸出台数の増加を期待できる訳ではない。
アフリカ向け輸出の増加や日本への逆輸入も選択肢ではあるが、現実問題として、タイがその輸出基地となる可能性は低い。結果、タイ国内の自動車生産台数は、今後減少することはあっても、大きく伸びる可能性は限りなく低いのである。つまり、今期の63%と言われるあまりに低い工場稼働率は、更に低下する可能性がある、ということだ。
8 日本の自動車メーカーに襲い掛かる悪夢
仮にこれが事実であるとすれば、日本の自動車各社にとっては頭の痛い問題だ。ただでさえ、米国市場の減速、中国市場のEV化、欧州市場でのガソリン・ディーゼル車排斥の動きがあり、EV車やFCV車の開発投資、AI・自動運転車・IOTへの投資、ウーバーなどシェアリングエコノミー拡大による自動車需要減退の危機、などが叫ばれ、足元では固定費の高止まり、為替変動、原材料費高騰、販売促進費の高騰などと、自動車を取り巻く環境は大変厳しい。
この中で、従来からCash cowの1つとして位置づけられたタイが、今後は利益が出ない市場ともなれば、日系各社にとってはNegativeな要素以外の何者でもない。勿論、図4で示したように、今後の成長市場として、非常に有望であろうと思われるインド・インドネシア・ベトナム、大市場としてそれなりに堅調さが続くであろう中国と米国で、引き続き、台数の確保に努力することは大事だが、タイに限って言えば、もう利益が出せそうで出ない、構造不況産業の仲間入りをしてしまった、ということであろう。
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