変わる市民の役割~世界が挑戦 市民への統合型救命教育~1
Japan In-depth / 2019年2月19日 19時14分
脳への血流を維持するためには心臓マッサージを行っている人が疲れる前に次々と交代しなければ救命することはできない。故に救命手当は誰もが出来なければならないのである。
また、誰でも救命手当ができるようになれば、医療従事者は専門技術に集中することができる。医療従事者の専門技術が効果を発揮するのは心臓が完全に停止してしまう前であるから、「蘇生」よりも「Life Support(命を支える)」の方が実態をよく表しているし「心臓を止めるな!」と意識した方が救命率の向上を期待できる。
このように、救命における一般市民の役割はBy Stander(「現場に居合わせた人」)よりもImmediate Responders(「直ちに救命の手を差し伸べる人」)と表現した方がその重要性を適切に表現しており、意識改革にも大いに役立つ。
■ 「First Responder」=世界「救命責任者」日本「一定頻度者」
救命手当、応急手当など様々な用語が用いられているので、ここでまとめておきたい。「治療」は医師が行うものであり、「処置」は治療へと繋げるためのものである。看護師など医師以外で診療の介助などを業として行っていたり、訓練を継続的に受けている人が行う専門技術が処置だ。「手当」は専門の訓練を受けていない一般人が行うものである。
自衛隊では医療職以外の隊員が行うものを「救急処置」という。生命に迫る危機の「急」を自ら「救う」ためである。自衛隊の医師以外の医療職や消防の救急隊員が行うものは「応急処置」である。「救急処置に専門技術で応じる」からだ。市民が行うものは「救命手当」と言うのが適切であろう。一般市民は生命の危機に頻回に接する職業に就いてはいないし、職業として継続的な訓練を受けていないためである。
アメリカが救命における一般市民の役割をBy StanderからImmediate Respondersへと変更したのは、アメリカにて頻発する銃乱射事件からの出血死予防から始まったハートフォードコンセンサス第3勧告書(2015年7月1日発)においてである。後述するが銃創・爆傷・刃物による致命傷では救命のための時間的余裕はさらに短く、心停止の3分の1、わずか1分で死亡率が50%に達してしまうし、技術的にも難しいため、これまでに普及してきた心肺停止への救命教育に併せて全国民に習得させることが課題となったことによる。
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