プロフェッショナルな医師とは
Japan In-depth / 2019年8月12日 7時0分
20世紀に入り、「プロフェッショナル」と呼ばれる職業が急増した。プロ野球選手、プロゲーマーなど、顧客から金をとれば、誰でも「プロ」と呼ばれ、アマチュアと対比する概念で語られることが多い。
本稿では古典的な意味での「プロフェッショナル」が、現代になってどう発展したか論じたい。ここで是非、ご紹介したいのがマービン・バウアーだ。マッキンゼー中興の祖と言われる人物で、コンサルタントという職種を「プロフェッショナル」として定義し、その地位を向上させた。ご興味のある方は『マッキンゼーをつくった男マービン・バウアー』(エリザベス・イーダスハイム著、村井章子、ダイヤモンド社)をお勧めしたい。
マービン・バウアーが主張する「プロフェッショナル」の条件は、自らが有する専門的知識を活用して、顧客のために働くことだ。その際、報酬は顧客からもらう。顧客との間に専門的知識の差があるため、顧客第一の自己規律が必要だ。
▲写真 マービン・バウアー氏 出典:Wikimedia Commons; McKinsey & Company
この定義に従うと、サラリーマンや研究者、さらに勤務医は「プロフェッショナル」とは呼べない。報酬を会社や病院、あるいは研究費を国から貰うためだ。この状況なら、顧客より上司や国の意向を尊重する。
世界の医師たちは、どうすれば「プロフェッショナル」たり得るか、議論を積み重ねてきた。有名なのは、1946年12月から翌年の8月にかけてドイツのバイエルン州のニュルンベルクで行われたニュルンベルク裁判だ。罪に問われたのは、強制収容所での人体実験と約350万人のドイツ国民を対象とした強制不妊手術を行った23人の医師たちだ。
被告たちは「上司に命令された。自分の責任ではない」と無実を主張したが、訴えは認められず、7人が絞首刑となった。この裁判では、政府からの命令で個人がとった行動の責任を問えるのかが議論されたが、最終的には医師の職業規範が優先された。
この裁判では、許容されうる医学実験の10のポイントをまとめた「ニュルンベルグ綱領」が作成され、1964年6月に世界医師会が患者の尊厳、自己決定権を尊重することを誓ったヘルシンキ宣言を採択する。この宣言は法的拘束力のある国際法ではないが、医師の職業規範として、それより上位に位置する。こうやって、医師の世界では職業集団としての規範を確立していった。
一方、わが国では1948~96年までの間に旧優生保護法の下で約1万6000件の強制不妊手術が実施された。1996年にらい予防法が廃止されるまで、ハンセン病患者の強制隔離が続いてきた。政府の責任を追及する声はあるが、医師個人の責任が議論されることはない。「政府の方針に従っただけ」と言い訳する医師が多い。
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