装輪ATVは空挺・島嶼防衛作戦に有用な21世紀の「ジープ」
Japan In-depth / 2021年6月19日 11時0分
清谷信一(防衛ジャーナリスト)
「清谷信一の防衛問題の真相」
【まとめ】
・装輪ATVが世界の軍隊で多用されるようになった。南西諸島でも有用。
・ATVの殆どのコンポーネントは市場調達でき、途上国でも開発可能。
・国内で軍用開発・輸出も可能。ただ、運用には法整備が必要に。
装輪ATV(All Terrain Vehicle:全地形対応車)とは、通常の車両よりも遥かに幅広い地形を踏破できる車両だ。この種の車両が世界的に軍隊で多用されるようになっている。
自衛隊でもようやくこの種の車両が導入されて、本年陸上自衛隊の総合火力演習でも登場した。
納入されたのは民生品のMULE PRO-FXT(EPS)をベースにしたもので、陸自に新たに導入されたMV-22オスプレイ用搭載車輌の試験用として調達、現在試験中である。(参照:2020年5月26日『陸自、MV-22搭載用ATV評価中』)
ただディーゼルエンジン仕様があるのにわざわざガソリンエンジンを選択している。これはガソリンエンジンの方が軽量、静粛で出力が高いという理由だろうが、ガソリンは爆発物であり、被弾時の損害が大きくなる。それがオスプレイ搭載時に起これば大惨事だ。また燃料は自衛隊車両の多くが使用しているディーゼル用の軽油が使えない。このため兵站でも不利だ。ガソリンエンジンを採用するのは当事者意識が欠けている。
ATVは極めて高い不整地走行能力を有する軽車両で、多くは幅広の低圧タイアを装備している。当初は米国で牧場での馬の代わりに使用されたり、スポーツ目的に使用されていたのだが軽量で、不整地の走行能力が高いという特性に軍隊も目を付けた。最初に導入したのは恐らく米軍の特殊部隊で90年の湾岸戦争でも偵察やパトロールなどで実戦に民間型が使用された。
80年代から一部の軍隊の特殊部隊でFAV(Fast Attack Vehicle)と呼ばれる一種のバギーを使用してきた。これは市販のバギーと違って車高が低く、オープントップで12.7ミリ機銃や対戦車ミサイルなどの武装を装着できるロールバーを装備したものだ。基本的に砂漠などでの急襲作戦などを想定された装備である。
米国のシュノハウス社のFAV(商品名)がその嚆矢であり、湾岸戦争での活躍もあり、より大型のALSV(Advanced Light Strike Vehicle)が開発された。また英国のロングライン社もコブラを開発し、英空挺部隊・特殊部隊に採用され、フランスのGiat社(現ネクセター)も米国のアウレコ社からライセンスを取得してこれを元にVRAを開発した。
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