「石原慎太郎さんとの私的な思い出4」 続:身捨つるほどの祖国はありや 17
Japan In-depth / 2022年5月13日 11時0分
牛島信(弁護士・小説家・元検事)
【まとめ】
・雑誌「ミスター・ダンディ」番付に、芸能人に混じり、三島由紀夫と石原慎太郎2人が名を連ねていた。
・石原にとり賀屋興宣は「決定的な意味を持った人」だったのでは。自らの死についての語りが同じ。
・後の歴史家は『太陽の季節』を書いた作家として以外の石原慎太郎の全体像を理解できるだろうか。
それにしても石原さんという方は、どうしてあれほどの人気者だったのだろうか?
つい先日、三島由紀夫が死んで50年になるというのでテレビが特別番組をやっていた。
その番組のなかで、三島由紀夫の紹介の一環として、ミスター・ダンディなる番付けの週刊誌(『平凡パンチ』1967年5月8日号とあった)の記事が出てきた。もちろん、一位が三島由紀夫だから画面に出たのだ。しかし、私の目は、同じ画面の四位に石原慎太郎氏が存在していたことに引きつけられた。二位が三船敏郎とあるように、ほとんどが芸能人ばかりのこの番付で、この二人の小説家は上位を占めたのである。
時代、ということであろうか。そういえば、番付もいまではランキングと呼ぶ。
ついでに記しておくと、石原裕次郎は六位にすぎなかった。
1967年は、石原さん34歳、三島由紀夫42歳のときのことである。
その番組を観ながら、私は同じころ、昔に観た別のテレビの番組のことを思い出していた。
「男らしい男」は誰か、というテーマで、やはり三島由紀夫が一番だった記憶がある。
しかし、当時の私は、テレビが三島由紀夫を一番男らしい男に選んだことにとても不満だった。
私は、大江健三郎こそ一番男らしい男ではないか、と思っていたからである。思えば確かに昔の話ではある。
大江氏は、小説『セブンティーン』のせいで右翼につけ狙われ怯えていた。私はその話を聞いて、とても人間らしく、したがって真の意味で男らしい人だと評価していたのだ。外見だけが男としてそれらしいかどうかなどというのは軽薄きわまりないことであって、大事なのは身に危険が及ぶかもしれないことであっても表現をためらわない人生の態度であり、それでいながらいざ怯えるべき状況になってしまったら身も世もなく怖がる。それこそが、今の、つまりその時代の、男らしさではないかと感じていたのであろう。私は私なりに、鬱屈していたのである。
出版当時話題になった、また私にとって初めての大江氏との触れあいであった『個人的な体験』(1964年 新潮社)の、最後の場面での主人公の変化が、世の中では悪評さくさくだった。しかし世評と違って私にはとても好ましく思えたことがかかわっていたのだろうと思う。私は中学校の図書室で、出たばかりのその本を手にしたのだ。妻の出産のまさにその時に、自分の現在の人生から逃げよう、愛人とのアフリカ旅行に新しい人生の可能性を賭けようと願っていた主人公は、「現実生活を生きるということは、結局、正統的に生きるべく強制されることのようです。」と、恩師でもあり義父でもある年上の男性に述懐する。(『個人的な体験』250頁 新潮文庫)それが、映画会社の重役にシナリオの変更を命じられて唯々諾々としたがったようだ、と不評さくさくさくだったのだ。三島由紀夫がその評の先頭にいた記憶がある。
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