「ロシアは歴史的な選択ミスをしたというくらいに追い込まないと、侵略に対するペナルティにならない」慶応義塾大学総合政策学科神保謙教授インタビュー
Japan In-depth / 2022年7月4日 12時7分
このセベロドネツクが完全に制圧されると、ルハンスク州の全域支配にほとんど王手がかかるような状態になり、目標目的は完全に変わっているとはいえロシアが勝利宣言する可能性があるんです。そうすると、もうその地域が取り戻せないような形で停戦交渉をせざるを得なくなってしまいます。国際社会がしょうがない、とそれを認めてしまったら、ウクライナの抵抗の根拠が失われてしまう可能性があるんです。
セベロドネツクでロシアを膠着させ押し返すことができれば交渉の前提が変わります。東部を完全に支配させない状態で停戦交渉に持ち込めるか、という意味でウクライナにとって重要な戦いなのです。
2月24日に戻すというのは、必ずしもウクライナ軍が全域を取り戻すという意味ではありません。例えばルハンスクとドネツクの独立意思を認めるかどうか、という問題も2月24日時点でありますが、今はその状態まで戻していくことがとても大事なポイントです。
そのためにもやはりもう数ヶ月、しっかりと支援をしていかないといけないと思います。今後も犠牲がたくさん出てしまいますが、将来のウクライナの地位を決めるための戦い、という感じがします。
安倍: 過去の歴史を見ても、台湾と比べてウクライナの人たちは戦争慣れしていますよね。絶えず他国に蹂躙されたり、内戦があったりしています。戦争が身近にあるという印象があります。
神保: そうですね。ただ、今回は異様な規模だと思います。東部ドンバスも内戦状態にあったとはいえ、その主要都市のインフラはしっかりしていましたし、文化も栄えていました。本当に戦争をしようとする国というのは、あんまりきっちりとしたインフラを形成しないような気がします。いつでも街を捨てる覚悟があるからかもしれません。
そう考えると、やはり今回の事態は未曾有の規模の変化だったと思います。例えばマリウポリの海岸にはヨットがあり、それを楽しむ人がいた。その場所が完全な焦土となってしまったのはウクライナの人にとっても想定外でしょう。
安倍: プーチン自身も振り上げた拳の下ろしどころが分かっていないようですね。
神保:そうですね、なのでどんどん目的を変えていて、今はかなりミニマムなものになっています。東部ドンバスを取り返すということに焦点をおいて攻撃を集中させているのだと思います。
(インタビューは2022年6月10日に行われた)
トップ写真:ロシア軍の攻撃を受けているセベロドネツクの様子(2022年6月16日、ウクライナ・リシチャンシク) 出典:Photo by Scott Olson/Getty Images
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