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「石原さんとの私的思い出9」続:身捨つるほどの祖国はありや25

Japan In-depth / 2022年12月14日 23時0分

『「私」という男の生涯』には、石原さんを象徴する話が出ている。(24頁)





「同じクラスに色白の目鼻立ちのいい、人形のように可愛い女生徒がいた。…彼女をどこかの殿様のお姫様に仕立て私が臣下の侍として近づき、かしずくのを想像してみたりするようになっていた。」





それが、彼女が授業の最中におもらしをしたことだけで、「彼女への感情は呆気なくも軽蔑に代わってしまった。」





自ら解釈してみせる。





「あの一件の思い出は私に終生つきまとった私の天性の一つ、『好色』を暗示するものだったに違いない。」





わからない。





私は、代わりに、芥川龍之介がその『或旧友へ送る手記』に「ある友人に宛てた手記」の中で、「僕は或女人を愛した時も彼女の文字の下手だったために急に愛を失ったのを覚えている。」と書いているのを思い出した。(芥川龍之介全集16巻4頁 岩波書店 1997年刊)石原さんは、好色という二字で、次々と女性を好きにならずにはおれない我が身を振り返ったのだろうか。





石原さんからは、未だ彼の頭の中にだけ存在する新しい小説のプロットが次々と披露された。





「社長の実弟が、自分の持っていた株を或る女に手放す、譲るんだ。すると、その株がいつの間にか、その社長の女房の幼馴染だったヤクザ者の手に入る。





ヤクザ者は、手に入れた株をネタに脅しにかかる。ホールディングのメンバーに入れろ、と要求するんだな。」





「取締役にしろ、っていうことですね?」





と私が確認の質問をする。





石原さんは、上機嫌で「法的に言えばそういうことになるんだね」と答えて、次に進む。





「その要求を会長が、『ノーだ』とハッキリと拒絶する。





で、そのヤクザは会長を殺す。





とうぜん警察が捜査に乗り出すんだが、レンタル・トラックで確証がつかめない。





会社の役員たちも、不自然な死だとは感じているんだけど、表に出したくないんだな。」





そう言ってから、石原さんは、





「その会長の葬式のシーンから小説は始まるんだよ。」





と教えてくれた。





「役員たちも念書について知っている前提なんだけどね、それをどうするかは、未だ決めていない。」





確かに、公刊された『火の島』は、会長の葬式のシーンから始まっている。





石原さんの話は、いつもそうだったのだが、話の途中で思いつくままに別の話題に跳ぶ。





その日は、「『ビザンチウムの夜』っていう、アーウィン・ショーの小説があってね。」と言いだした。





『ビザンチウムの夜』では、中年の男性映画脚本書きが、彼をインタビューしにきた、娘の年ほどに若く、頭の良い女性と恋に陥る。その結果、男は離婚してこの女性と、と思い詰める。中味からして、たぶん、そのころ石原さんはずいぶん年下の女性、それも石原さんにインタビューしたりした女性と深い、官能に満ち満ちた生活をしていたのだろう。ああ、この女性かなと鹿「『私』という男の生涯」を読まれた方なら気づくだろう。





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