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「石原さんとの私的思い出9」続:身捨つるほどの祖国はありや25

Japan In-depth / 2022年12月14日 23時0分

インタビューには「すべてを溶かす官能の物語」という題がつけられていた。





編集者によるまえがきに、「東京都知事として多忙を極める作家・石原慎太郎氏」と紹介がある。それを今回改めて読んで、私は石原さんの本質なんだなと感じた。存在しているのは石原慎太郎という一人の人間ということであって、都知事も作家も、そのある部分でしかない。おそらく、官能によって自らが溶けてゆくことを許している瞬間の石原慎太郎も同じことなのだろう。





私の事務所にお見えになられた石原さんは多弁だった。「非上場の建設会社でね。運送会社の持っていた土地が欲しくて、会社の土地を運送会社の土地とスワップするんだ。交換。





ところが、二つの土地の値段が違うから差額が出るんだよね。それを裏金で、何年かに分割して払う約束をする。で、念書を書くってわけだ。」





石原さんの話は、ますます具体的なものになっていた。





親会社、ホールディングに会長と社長がいてね。その社長に実弟がいる。二人のオヤジが会長。





社長の女房とヤクザ者とがたまたま幼馴染でね。」





幼馴染。





石原さんには、幼馴染という関係への奇妙なほどの執着がある。たとえば『公人』の賀屋興宣が恋した小学校の同級生。さらには、『絶筆』という短編集にある『遠い夢』の、手を繋いで歩いただけのやはり小学校の同級生、河野礼子という名の女性。





その女性は別の男性と結婚し、石原さんは彼女の弟を通じて初恋の女性の現況を聞く。弟が「僕が姉に、あなたのような人と一緒になってもらいたかったなあ」と言うと、石原さんは、「初恋というのはみんな淡くて脆いものだよ。それを黙って抱えて過ごすのが人生というものじゃないかね」と答える。(同書12頁)





石原さん88歳の作品である。





同じ本に出ている『空中の恋人』という、特攻機で死んだ男の初恋の女性。出撃の前夜、二人は結ばれる。





「初めて腕にする彼女の熱い身体」(同書20頁)





しかも、一度切りの交わりがあっただけで、男は特攻に往き、顔に大火傷を負い二十数年間戻らない。彼女は男の子供を身ごもり、産む。その子が育ち、男が死んだと信じた母親は再婚し子は無事に育つ。子は自衛隊のパイロットになり、実の父親と初めて会う。これも88歳の作品である。特攻に往って戻らなかった男の、心のうえでのモデルは石原さん自身に違いない。





石原さんには、官能という表現でしか顕現できないが、実はもっと奥底に肉体の交わり以前の男女の関係を痛切に思う気持ちが潜んでいる。





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