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「石原さんとの私的思い出9」続:身捨つるほどの祖国はありや25

Japan In-depth / 2022年12月14日 23時0分

「アーウィン・ショーは、『若き獅子達』っていう、映画になったのもあって、いいよ。」





と少し自分の内側に沈潜している表情になる。その女性との官能に満ちた生活を反芻していたに違いない。





「そう、『赤と黒』のマチルドとね」





とまた別の話になってしまった。





『赤と黒』は石原さんのお気に入りだった。石原さんは、湘南のお坊ちゃんという世評とちがって、自分のことを「叩き上げ」と形容していた。そんな石原さんには、『赤と黒』のジュリアン・ソレル、立身出世のためには女性を踏み台にすることを顧みない若い男、それでいながら、女性の愛に包まれてしまう男のことが、我が身のこととして感じられていたのだろう。





「財団があってね。音楽の」





と、石原さんは、書いている小説の話に戻ると、再び止まらないように話し始めた。





「皇后陛下が関係されているような、格式の高い財団なんだ。





社長の実弟てのが、その財団に入れこんで、会社の金を使い込む。会長がいなくなってしまって、後継ぎになった兄、つまり社長としては、自分の実弟が逮捕されるんじゃないかと恐れる。それで、或る決断をする。」





その辺はこれからだ、と言いながら、石原さんはとてもで、そこで私との対話は終わりになった。





その次は2005年4月19日だ。





わずか6日後のことである。





電話をいただいた。夕方、5時35分まで話していた。





前日の17時4分にお電話をいただいていて、秘書が私が外出中である旨をお伝えし、こちらから折り返しましょうかとうかがうと、石原さんは、





「いや、この間のお礼を申し上げたかっただけですから。また電話しますとお伝えください。」





というやり取りだった。





ところが、翌日の同じ時刻ころに電話がかかってきたのだ。





石原さんとしては、私に話したくてたまらなかったのだろう。それででも、私の邪魔をしてはいけないと、電話を返すように秘書に依頼はしなかった。





そういう方なのだ。





19日の電話では、石原さんは初めから高揚していた。





「プロット、だいぶ進んだよ。





1週間、逗子でやっていたんだ。」





「女の人のこと、ヤクザと。





ヤクザがホールディングの株を持っているっていう前提での話だからね、株主総会なんかでどんなことが現実にあるのか、知り合いの建設会社に訊いてみたんだ。解体とかいろいろなことがあるだろう、って。





ところが、ヤクザとの関係はありませんっていうんだな。」





私は、「そりゃそうでしょう。都知事に、上場会社が『実は裏金の処理を解体業者にしょわせてまして』なんて、仮にあったって、決して喋りませんよ。」





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