「石原さんとの私的思い出9」続:身捨つるほどの祖国はありや25
Japan In-depth / 2022年12月14日 23時0分
翌日、4月13日に私の事務所でお会いしているから、たぶん、その電話でお会いする約束をしたのだろう。電話での話では、時間が足りなかったと感じられたに違いない。それほどに『火の島』の構想は煮詰まりつつも、おそらく公務に足を取られて進まないことへのどうしようもない苛立ちがあったのだろう。石原さんは、なんでも「一気呵成主義」なのだと自称していた。それが、前日の私への電話で一挙に霧が晴れ、遠くにあった最終地点が急に身近なものに感じられて、いてもたってもいられなくなったのではないだろうか。
私が青山のツインタワーにあった事務所を山王パークタワーへ移転したのが2004年の11月29日のことだったから、移転して直ぐ後にお見えになったということになる。
17年前のことである。
初めて青山のシティクラブ・オブ・トーキョーでお会いしてから6年が経っていた。初めてお会いした時の石原さんは、衆議院議員を辞めて、都知事になる前で、思いがけない人生のオアシス、「精神の洗浄期間の四年間」の最後のころのことになる。
石原さんは、その四年のあと、「私はまたまた政治なるものにまみえることになった。」と書いているが(『「私」という男の生涯』283頁)そんなはずはないだろう。衆議院議員を辞めても、政治と縁が切れるなどとは夢想だにしていなかったろう。だとすれば、大統領がない国なのだから、都知事は、石原さんにしてみれば、自然な選択になる。もっとも、残念ながら残された唯一の手にし得るものではあったにしても、石原さんにしてみれば小さなオモチャでしかなかったろうが。
以前にも書いたが、石原さんと私は17歳違いで同じ誕生日同士だから、私が『火の島』について石原さんと話していたころの石原さんは今の私の年齢だったことになる。そういうことなのかと思いながら、いまこうして石原さんとの細かいやりとりを思い返すと、いささかならず感慨が湧く。サマセット・モームが書いていたとおり、人は、生き、そして死ぬ。そういうことだ。
同じモームはこうも言っている。
「作家が現実に関与したことも時々はあった。それは作家としての活躍に悪影響を及ぼした。」(『サイング・アップ』(岩波文庫 274頁)
「僕と同世代できちんと小説を書いている作家はもういないでしょう。」
石原さんが、『本の話』という雑誌で『火の島』についてインタビューを受けたときの言葉だ。(『本の雑誌』2008年11月号 3頁)76歳である。
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