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「石原さんとの私的思い出9」続:身捨つるほどの祖国はありや25

Japan In-depth / 2022年12月14日 23時0分

ホワイトボートに「A社」と書いて丸で囲み、その右に「A .Holding」と書かれていて、同じように丸で囲まれている。





A. Holdingから左むきに矢印が出ていてA社に届いている。その矢印の下に書かれた100%という数字が、A. Holdingの持っているA社の株の割合を示している。要するに完全に子会社ということだ。





ところが、その100%という数字のすぐ下に、51%と別の数字が書かれていて、その51%の右側に上向きの矢印が書かれている。保有株数の減少とその後の増加を示しているのか。石原さんのスト―リーがそれを必要としたのだろう。





ボードに書き込んだのは私なのだし、もちろん石原さんの考えを聞きながら図表化していったのだが、今となっては詳細はわからない。そんな、密度の濃い、二人切りで石原さんの新しい小説の構想を固めていくための時間を過ごしたということだ。





A .Holdingなる会社そのものの株主は、「弟」が51%とある。他にも株主がいることを示すように、何本かの実線が外向きに伸びている。





その弟から右に矢印が出ていて、その先は「女」とあり、意味ありげにすぐ横に「元」とあって、その二つの文字を合わせて一つの丸で囲んである。





つまり、これが弟からその株が、昔の女に流れるという発展を示しているという設定を意味しているのだ。





この丸で囲まれた「女 元」にはCという人物からの矢印が下から届いていて、さらにそのCにはTという文字からの矢印が左下から届いている。Tからは、直接「女 元」にも矢印が出ているが、斜線で消されている。





石原さんと会社の支配構造の話をしている途中で、私が消したのだろう。





「このCというのは暴力団なんだ」と石原さん。





私は、二人だけの部屋で、熱心に自分のアイデアについて話す石原さんの姿を眺めながら、何十年も前に読んだ石原さんのセリフを思い出していた。





それは、大江健三郎との対談だった気がする。





「政治家をしていて忙しいけれど、でも、だからこそ、パーコレーターで淹れたコーヒーのように、濃い、芳醇なものができ上りつつあるんだ。」





その発言に、そもそも小説家業を廃業して政治家業を始めたものと思っていた私は、少し無理をしているなと感じた。それにパーコレーターで淹れたコーヒーは芳醇どころか、香りが飛んでしまっているものだ。





ついでに記すと、大江健三郎が、政治家になると宣言し、参議院選挙への出馬を表明した石原さんに、どの新聞でだったか、「石原慎太郎よ、どうして文学を棄てるのだ。小説家にわからないどんなことがこの世にあるというのか」という趣旨のことを言っていた。





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